2008年03月16日

身勝手な悪霊 放課後の怪

「ねえ笙子、本当にここに落としたの?」
「うん。だってほら、練習中は上衣着てなかったんだし、フロアの方には落ちてなかったんだから、きっと片付けでここ入った時に落としたんだよっ」
 日が沈みかけ、人気のなくなった薄暗い体育館。その舞台脇の用具室に、二人の少女が入ってきた。つい先ほどまで部活に参加していたらしく、二人とも体操着姿だ。半袖の体操シャツに、紺色のブルマ。その上にジャージの上衣を羽織っている。
 笙子と呼ばれた少女は、茶色っぽい髪を肩にかかる程度まで伸ばし、軽くウェーブをかけている。脱色したような不自然さはなく、傷みも見られないことからすると、元々色素が薄いのだろう。身長は150cmに満たないぐらいか。小さく整った顔のパーツひとつひとつが、愛らしさを醸し出している。
「もう、早く見つけないと先輩たち帰っちゃうよ。それに、携帯は練習場所に持ち込み禁止。ちゃんとロッカーに仕舞っておけば、こんなことも……」
「ごめんってば、摩耶ちゃん。だって近くにないと落ち着かないんだもん。メール来るかもしれないし」
 もう一人の少女は摩耶というらしい。笙子よりわずかに背が高く、艶やかで真っ直ぐな黒髪を肩口で切り揃えている。運動部らしからぬ白い肌だが、年齢以上にしっかりした、意志の強そうな瞳をしている。いつも友人の面倒をみる役回り、といった雰囲気だ。
 二人とも、部活の練習が終わって一度は部室に向かったのだが、着替え始めたところで笙子が「ポケットに入れておいた物を落とした」と騒ぎ出した。文字通り腕を引っ張って摩耶を連れ出し、通った道を辿りながら体育館まで戻ってきたのだ。
「……来たって返せないでしょ。まあ、落としたのがここで、誰にも気付かれてないってのは、ある意味幸いよ。バレてたら叱られてるんだから」
「い、一応気をつけてたから」
「気をつける以前の問題なんだけど……はぁ、落としたのが携帯だって知ってたら、わたしの携帯も持ってきたのに。まぁいいわ。それで、なんであんなに必死に頼み込んできたの? 普通に言ってくれても手伝ったのに」
「それはその、ほら、知らないかな? “放課後の空白”の噂」

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posted by nekome at 13:31| Comment(10) | TrackBack(0) | 創作・憑依

2008年03月09日

身勝手な悪霊 コートの下には

冷たい風の吹きつける、夜の駅前。身を縮めるようにして歩く人々の間を、寒さなど気にならぬかのように跳ね回って移動する影がある。
 いや、人の目に留まることのないその影は、跳ね回っているのではない。飛び回っているのだ。地に足を着けずに。
(へへっ、やっぱ冬の装いってのもいいねえ。「夏は女の肌の露出が増える」って喜ぶ男どもも多いけど、冬だって捨て難いんだぜえ。厚着をしていてもわかる、女性らしい体のラインってのがいいんじゃないか。はあ……コートとブーツの組み合わせは最強だよなあ……)
 そんなことを呟きながら、行き交う女性たちをじろじろと見ているのは、幽霊の清人だ。
 ぶつかることもなければ気付かれることもないので、遠慮なく至近距離で眺めている。

 品定めでもしているのか、次々と眺める相手を変えながら、駅とは反対方向へ移動していく清人。
 そんな彼がある居酒屋の前を通りかかった時、ちょうど大学生らしいグループが店の中から出てきた。まだまだ遊ぶ者と、これから帰る者がいるらしく、笑顔で手を振って別れていく。
 そのうちの1人、ブラウンのコートを来た女性が、清人の目に留まる。
 独りで駅へ向かっているらしいその女性に近づいてみると、なかなかの美人であることがわかる。きりっとした目元に、形の良い唇。少し茶色がかった髪は、ボブカットにしていた。断言は出来ないが、スタイルも悪くなさそうだ。
(よお〜し、この娘が良さそうだ。それじゃ、お邪魔しま〜っす)
 ニヤリと笑った清人が、その霊体をすぅーっと女性の身体に重ねていく。
 一瞬ビクっと震えたかと思うと、軽く足元をふらつかせる女性。
「おっ……とと、結構酔ってたみたいだな。えっと、わたしの名前は……恵理子か。21歳の大学生で、アパートに一人暮らしね……ふむふむ」
 突然立ち止まったかと思うと奇妙な独り言を漏らし始める、恵理子という女子大生。周囲を歩いていた人間は、彼女を怪訝な顔で眺めながら避けていく。
「んー、アパートの場所があそこだから……よし、まだ終電には余裕があるねえ。それなら……」
 まるで他人のことのように自分の記憶を探っていた恵理子は、ニヤリと笑うと、駅とは違う方向の狭い通りへと足を向けた。
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posted by nekome at 13:28| Comment(9) | TrackBack(0) | 創作・憑依

2008年03月02日

身勝手な悪霊

(さ〜て、今日のターゲットはどいつにするか……)
邪な意思の篭ったつぶやき。しかし、その言葉が誰かに聞き取られることはない。
姿すら見られることはない。
何故なら、しばらく前から“彼”は肉体に縛られない存在――幽霊なのだから。
いっそ悪霊と呼んでも構わないだろう。
悪霊という言葉の定義があるのかはともかく、これから“彼”の取る行動を考えれば――
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posted by nekome at 15:47| Comment(13) | TrackBack(0) | 創作・憑依
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