2016年11月27日

わたしを衝き動かすオレ@

 玄関の扉を通り抜けた瞬間、全身に寒気が走った。自室へ向かい階段を登っている最中には、まるで走った後のように心臓が早鐘を打ち始めた。
 風邪かとも思ったが、こんな風邪のひき始めが今まであっただろうか。なんにせよ大事を取って、家族が帰ってくるまで布団で横になっていた方が良いかもしれない。
 そう思いながら勉強机の脇に荷物を降ろし、顔を上げた先で姿見に映った自分の顔が目に入った。
 肩の少し上で切り揃えた艶のある黒髪。垂れ眼がちながらも大きな瞳。卵型をした顔の輪郭に、白く肌理細やかな頬。
 見慣れたはずの自分の顔を、気付けば凝視していた。
「かわいい……」
 無意識のうちに呟いた言葉にハッとなる。
「な、なに言ってるんだろわたし」
 友達から「かわいい」と言われることはよくあるし、自分の容姿に自信がないと言えば嘘になる。でもいくらなんでも、自分の顔に見惚れあまつさえ賞賛するなんて、そんなナルシストだったつもりはない。
「やっぱり熱でもあるのかなあ」
 よく見ると鏡に映る頬はうっすらと紅潮しているようだ。熱のせいで頭がバカになっているから、あんなことを口走ったのかもしれない。これはますます寝て休む必要がある。


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2014年10月05日

憑依丸‐テニス部員編‐

「そこの男子たち! 見世物じゃないのよ。フェンスから離れて!」
 ポニーテール姿のキリッとした顔立ちの女子が声を張り上げる。女子テニス部の部長、九堂香澄だ。
 厳しい表情でラケットを突きつけられ、テニスコートの周りに集まっていた男子生徒たちは舌打ちをしながら距離を取る。中にはスマホを慌ててポケットにしまっている奴もいる。一応散ったように見える男子たちだが、九堂先輩がケチをつけられない程度の場所からテニスコートに視線を注いでいる。近くを通りがかっただけの奴も、一度はテニスコートの方に顔を向ける。
 あんな短いスコートを翻しながら動き回ってるんだから、野郎どもの目が集まるのは当然だ。ちょっと動いただけで中身が見える。勿論パンツが見えるわけはない。けれども、ヒラヒラのついたアンダースコートに包まれたお尻は、充分以上に扇情的だ。
 加えて、うちの高校の女子テニス部はなかなかに容姿レベル高めな子が多い。一度散らしたところで、どうせまたギャラリーは戻ってくるだろう。

 かく言う俺――井野崎恭弥もさっきまでフェンス前で目の保養をさせてもらっていたし、すぐに再開するつもりだ。
 ただし、未練がましくうろついている連中と違って、今はさっさとコートから離れていく。
 なにもコソコソと覗く必要はないんだ。夏休み前と違って今の俺には、特等席で拝ませてもらう方法がある。まあ、ある意味これ以上なくこっそりやるんだけどな。


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2014年09月21日

憑依丸‐病院編‐

「あーくそぅ、退屈だよなあ」
 夏休みに入って間もないうちに交通事故で入院。当然宿題もごっそり連れてこなきゃならなかったから、暇なわけじゃない。
 とは言ったって、遊びにも行けないのに宿題だけやってて楽しいわけがない。痛みに悩まされることも少なくなってきた今となっては尚更だ。
「やっぱ、コイツを使ってみるかな……」
 ベッドの横にあるテレビ台の引き出しから小瓶を取り出す。瓶の中には黒い丸薬が詰まっていて、黙っていれば胃腸薬か何かだと思うだろう。だが、これがそんなつまらないものじゃないことを俺は知っている。
 あの店で初めて手に取った瞬間に「知った」んだ。

 ビルとビルの間に埋もれた存在感のない建物。前日までその場所にあったかどうかさえあやふやな、薄暗くて中の様子すらよく見えないような怪しい店に、なんで足を踏み入れる気になったのか自分でも不思議だった。
 けれど吸い寄せられるように手を伸ばした、この丸薬入りの小瓶に触った瞬間、そんな疑問は吹き飛んだ。
 頭の中に流れ込んで来た、この薬の効果。自分の肉体を離れ、他人の肉体に入り込んで支配するという、非現実的なチカラを与えてくれるという。他人から説明されたら鼻で笑うか思い切り警戒するかだけど、もう脳内にその知識が「ある」んだ。信じるか信じないかじゃない。俺はこの薬が本物だと「知っている」。
 財布の中身はすっからかんになってしまったけど、迷うことなく買って店を出た。こいつがあればとんでもないことができる。期待ではち切れそうで、今にも踊り出したいぐらいだった。

 ……まあそんな具合に浮かれすぎてて、うっかり車に撥ねられたんだから馬鹿というしかない。
 おかげで入院なんてことになってしまって、この薬で遊ぼうなんて気持ちの余裕は暫く生まれなかった。
 でも入院生活にも慣れてきたし、また思わぬトラブルに見舞われる前に楽しんでおかないと。それに、ターゲットはもう決まっているんだ。

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2012年01月21日

ある母娘の記録

「ふふ、何度見ても君は可愛いねえ」
 ブレザー制服姿の、女子高生とおぼしき少女が、姿見に映った自分自身を眺めながら顔を綻ばせている。
 いや、「綻ばせている」というには少々、その表情には邪念が多いようだ。
「愛らしい顔立ちなのに、こんなにふっくらとしたおっぱい。まったく、たまらないよ」
 まるで女体をじろじろと視姦する男性のようないやらしい目つきで、胸元に視線を下ろす。両手で掬い上げるようにして乳房を掴むと、一層だらしない表情を浮かべた。
 白いブラウスを大きく盛り上げる双つの膨らみに指がめり込み、その感触を堪能するかのように、ぐにぐにと蠢く。
「ふあぁっ、柔らかい……。ブラと制服の上からでもこの揉み心地……ああっ、手が、止まらないよっ」
 自分の胸であるのに、まるで初めて触るかのように喜びの言葉を漏らし、身体をくねらせながら乳房を揉みしだく。
「いい、いいよっ、望海ちゃんのおっぱい。君の身体は最高だよ」
 彼女がその言葉を発した直後、部屋のドアが勢いよく開いた。


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2010年02月22日

二人の悪霊 ある家族の凶宴(後編)

 平凡な会社員、津山達彦は幸福だった。
 自分には勿体無いぐらいに美しく、いつも笑顔で支えてくれる妻。
 その妻に似て愛らしく育ち、思春期を迎えても父親を邪険にすることもなく、いっぱい甘えてきてくれる娘。
 学生時代に目立つこともなかったし、社会人になってからもぱっとしない男だという自覚はある。しかし、温かい家庭に恵まれた彼は、自分のことを人並み以上に幸せな人間だと思っていた。
 出張から帰ったこの日も、玄関を開けてすぐ笑顔で出迎えてくれた娘の菜摘に、達彦は心癒される。
「お父さんお帰りなさーいっ!」
 すぐに、台所から妻の由比子も顔を出す。
「お帰りなさい、あなた。ご飯もう少しかかるから、先にお風呂入ってきたらどうかしら。疲れてるでしょう?」
 勧めに従って風呂で体をほぐし、さっぱりとした気分で食卓へ着くと、並べられた料理は随分と豪華だった。
「おいおいどうしたんだ? ワインまであるじゃないか。これ、いつもの安いやつじゃないだろう?」
「出張お疲れ様ってこと。いつも頑張ってくれてるんだもの、たまにはこれくらい、ね?」
「ほらほらお父さん、飲んで飲んで!」
 ねぎらいの言葉と上手い料理に感動しながら、久々の我が家を満喫する達彦。時折悪戯っぽい笑みを浮かべながら目配せをしている妻と娘が、やけに酒を勧めてくることは気になったが、深く考えることもなく食事を終えた。
 酔いと疲れ、そして入浴を済ませているという気楽さも手伝って、寝室に辿り着いた達彦は早々に意識を手放した。

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2010年02月14日

二人の悪霊 ある家族の凶宴(前編)

「この家か? 前から目をつけてたっていうのは」
「ああ、美人の奥さんと娘がいるんだが、旦那はぱっとしないやつでな。正直、あんな男にゃ勿体無い幸せだ。だから……」
「俺たちが少しぐらいお裾分けしてもらったって構わないよな、ってか?」
「少しぐらいなんて言わずに、な。くくっ」
 眩しいぐらいの陽光が降り注ぐ、日曜日の午前中。爽やかな空気に似つかわしくない存在が二つ、不穏な意思を放っていた。
 その不可視の存在――二体の幽霊は、空中に浮かんだ状態で、足元の一軒家を眺めている。どれだけ日の光が強かろうが、彼らの行動が制限されることはない。何時だろうが何処だろうが、彼らは望んだ時に望んだ場所に行けるし、居ることができる。
 それは空間に限った話ではない。生きた人間の身体の中でさえ、彼らは心地の良い居場所とすることができる。
「ちょっと待たされたが、邪魔な旦那が出張中の今は絶好の機会だ。存分に楽しめるぞ」
「おう。それで、お前はどっちに憑依するんだ?」

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2009年11月01日

生徒指導室での脅迫

「おい北澤ァ! 起きろっ!」
 授業の終了直前、担当教師である柳田の怒声が教室に響き渡った。
 直前までうつむいた姿勢で固まっていた男子生徒が、ゆっくりと顔を上げる。
「……いや、起きてますって」
「嘘をつくな! お前さっきからずっと下向いて寝とっただろうが」
「だから……寝てませんってば」
 ふて腐れたような口調でぼそぼそと答える男子生徒――北澤勇太。表情もかなり不機嫌そうだ。
 当然、その様子を見た教師の言葉には、一層の怒気がこもるようになる。
「お前、そんな態度を取って……! 放課後、生徒指導室まで来いっ。わかったな!」
 現国教師である柳田は、見る人の十人が十人「体育教師だろう」と答えるような体格といかつい顔をしており、こういう時にはかなりの迫力だ。学年主任も兼任しており、生徒としては決して目をつけられたくない相手と言える。
「……わかりました」
 不承不承といった感じではあったが、勇太もそれ以上抗弁することなく頷いた。

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2009年10月25日

お裾分け

「あ、岡田さん、お帰りなさい。ちょうど良かったぁ」
「どうも、こんにちわ。……どうしました、乙川さん?」
 下宿先のアパートへ大学から帰ってくると、お隣の奥さんが荷物を抱えてドアから出てきたところだった。
「実家からお魚が送られてきたんですけど、ちょっと二人で食べるには多くって。お裾分けしようかなと思って」
「え、いいんですか? なんか、しょっちゅう頂いちゃってるような……」
「いいんですってば。ね、助けると思って貰ってください」
 お隣さん――乙川純子さんからは、実家からの贈り物だとかおかずを作りすぎたとかで、頻繁に食べ物を頂いたり、色々と世話を焼いてもらっている。一人暮らしの俺を気遣ってくれているみたいだ。
「それじゃあ、ありがたく。あ、でもこれってどうやって調理すれば……。そのまま焼いても良いんですっけ?」
「あら。それならわたしがやってあげましょうか。今から作れば、ちょうど夕飯の時間になりますし。ふふっ、作りたてを食べさせてあげられますよ」
「嬉しいっすねえ。じゃ、またお願いできますか?」
 部屋のドアを開けると、何の躊躇も無く上がり込んでいく純子さん。
 いつも世話になっていてこう言うのもなんだけど、ホント無警戒だよなこの人……。ありがたいんだけど、こっちは本能との戦いで大変だよ。

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2009年05月25日

寂しい夜は

「はぁ、アイツも結婚かあ。ま、アイツなら頑張って幸せになるだろ」
 今日は大学時代の友人の結婚式だった。俺が参加したのは2次会だけだったのだが、まあそれなりに楽しませてもらった。久し振りに大学の仲間とも会えたしな。
「さて、これからどうするかな」
 20代後半ともなると、焦りを感じてるやつらもちらほらいる。わからないとは言わないが、俺が今悩んでいるのはそんな真剣な問題ではない。
 ただ単に、今夜をどうやって過ごそうか、というだけの話だ。
 県内の都市とはいえ、2次会の会場は俺の自宅からかなり遠かった。ほぼ反対側の県境にある家からだと2時間以上かかる。それでも充分に行動圏内で、出てくるぶんには面倒ではないのだが……今からだと、ローカル線の終電には間に合いそうになかった。こっちで飲む時は、いつもそれがネックだ。
「ネカフェにでも泊まるか。明日も休み取ってあるんだし」
 東京などに比べると、地方都市のネットカフェにはかなり安いところもある。仮眠客を強く意識した作りの店もあるし、店選びに失敗しなければ、そう悪くもない宿泊先だ。

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2009年03月16日

課外授業をお望みどおり

「なあ浩介、今度ちょっと相原先生に憑依してくれよ」
 一緒に下校していた秀輝から、突然そんなことを頼まれた。
「は? ……いや、憑依するのは構わないんだけどさ。何、お前も相原に恨みでもあんの?」
 相原京子は、俺たちの学年の数学教師。美人だがかなり性格がキツく、生徒指導にも容赦がない。授業に課題にと、何度となく苦しめられてきた相手だ。何か面白い手を考えついたら、仕返ししてやろうかとも考えている。
 だから、俺はてっきり秀輝もそのクチで、相原に憑依して恥をかかせてほしいのかと思ったんだが……。
「いやいや、そうじゃなくてな……相原先生とさ、セックスさせてほしいんだよ」
「はああっ?! お前わかってんのか? 俺の憑依能力は――」
「わかってる。わかってるって。だから頼んでるんじゃないか」
「……へえぇ。お前がそういう趣味だったとはねえ……。まあいいや。そういうことなら、断る理由はないさ」
「サンキュ! 恩に着るぜ!」
 まったく物好きなやつだな。そんなことをしたら、後々面倒になるかもしれないのに。まあ本人がいいって言ってんだから、俺も精々楽しませてもらうとしましょうかね。

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2008年12月16日

二人の悪霊 狙いはチアリーダー(3)完

「ンっ……ふうっ……悪ぃ、そろそろこの姿勢限界だ。――え? 何、今の。口が……勝手に……」
「はいはい、脚下ろしていいよ。しっかり掴まってなよ。一度イかせてあげるからっ」

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二人の悪霊 狙いはチアリーダー(2)

  メインストリートから外れているとはいえ、それなりに人はいる。華やかなチア衣装で歩いている二人には、主に男性から、ちらちらと視線が向けられていた。
「なあ、やっぱり見られてるよなあ、俺たち」
「そりゃあそうだろう。こんなに可愛くてスタイルもいい娘が、短いスカートひらひらさせて歩いてるんだ。本当ならじっくり見たいとこだろ」
「ま、気持ちはわかるよなあ。へへっ、こっちは眺めるどころか、その身体を自由に操れるんだけどな――こんな風にっ!」
 由梨――身体を支配しているのは清人――はニヤッと笑うと、突然自分のプリーツスカートを捲り上げてみせる。すれ違った男たちがぎょっとして立ち止まった。
「おいおい、あんまり目立つなよ」

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2008年11月23日

二人の悪霊 狙いはチアリーダー(1)

「そういえば、どうして、俺があの娘に乗り移ってるってわかったんだ?」
「ぼんやりとだけどな、生きてる人間とは違う……幽霊の気配みたいなもんを感じたんだよ。あとは、あの妹の記憶から来る違和感だな」
 都市の上空を浮遊しながら言葉を交わす、不可視の存在が二体。
 彼らは、先ほど本人が言ったとおりの、いわゆる幽霊である。
 質問を発した方の生前の名前は、清人。応えた方は祐介という。
「気配ねえ……。俺はなんも感じなかったよ。そもそもお仲間に会うこと自体が初めてだったしな」
「俺だってそう何度も会ったことがあるわけじゃないけどな。意外といないもんだぜ? 幽霊」
「やっぱそうなのか。生きてる間は、幽霊なんてあちこちにいそうな気がしたけどなあ。あれか、ほとんどすぐに成仏しちまうのか? 未練が濃くないと残れない、とか?」
「どうかな。俺は正直なところ、そこまで大した未練を抱いてたつもりはないよ。未練の大小で、この世に留まれるかどうかが決まるっていうんなら、もっと残ってるやつがいるんじゃないか? 特に病院周辺なんかにはさ。けれど、ほとんど見かけない。となると……これも、一種の才能なのかもな」
 肉体を持たない、つまり発声器官を持たない彼らが、どのように意思疎通を行なっているのか、そんなことはわからないし、彼ら自身も深く考えてはいない。
 理屈がわからなくとも、実際に会話が可能なのだから、悩む前にまず話す。
 そして、やはり理屈がわからなくとも、生きた他人に憑依して、その肉体を操れるのだから、悩む前にまず愉しむのだ。

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2008年09月21日

二人の悪霊

 すっかり涼しくなった夕方の道路を、自転車に乗った女子高生が走っていく。少しキツそうな印象を受けるが、充分に可愛らしい顔立ちといえた。
 彼女は白を基調としたセーラー服に、短すぎるくらいの黒いプリーツスカートを身につけている。その黒いスカートや、袖に入った黒いラインが、眩しいぐらいに白い肌を、一層際立たせている。
 その扇情的な太腿を露わにしているというのに、道が軽い上り坂になっているとはいえ、立ち漕ぎなどするものだから、角度によっては、スカートの中の下着が見えてしまいそうである。
 もっとも、不自然にしゃがみ込んでいるような人影もなく、彼女はなんの警戒もせずに、無防備な姿勢で自転車を漕いでいく。

 そう、人影は、ない。
 今、彼女の瑞々しい肢体を眺めているのは、本来この世にあるべき存在ではない。

(おお〜、そんな格好してると下着が丸見えだよお嬢ちゃん。ま、ちゃんと隠してたって俺には関係ないけどな〜)
 邪な意思を抱きながら、誰にも勘付かれることなく少女にまとわりつくモノ――それは、言うなれば悪霊。生前の名を清人という。
(くふふ、むっちり太腿もパンツも見放題。相手がどんな服装だろうが姿勢だろうが、気付かれずに至近距離で覗けるってのはイイもんだぜ。……さて、見るだけなのはそろそろ終わりにして、今日はこの娘でもっと楽しませてもらうとしますかねっ)
 鑑賞を打ち切った清人は、その身――いわば霊体だが――を少女のスカートの中へ潜り込ませ、さらに奥の、少女の肉体そのものに重ね合わせる。

 一瞬、少女はビクンッと体を震わせ、足の動きを止めてしまう。漕ぎ続けていたことによって保たれていたバランスが崩れ、倒れそうになるところを、慌てて地面に足を下ろして踏みとどまる。
「っとと……! 危ねえ危ねえ。自転車に乗ってる最中の憑依ってのは気をつけねえとな」
 もし耳にしている者がいれば首をかしげたであろう、奇妙な独り言を漏らす。この瞬間、美しい女子高生の肉体は、清人によって乗っ取られたのだ。少女は、整った顔を歪めていやらしく笑う。
「さあて、もっと楽しい下校時間にしますかねっと」

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2008年07月27日

適正試験

「○○大学経済学部の各務玲奈です。よろしくお願いします」
 緊張しつつも、力のこもった声が室内に響く。
 声を発したのは、リクルートスーツを着た、整った容姿の若い女性。
 ここは、とある企業の面接試験会場。今行なわれているのは最終面接であり、受験者である彼女の前には、会社の役員たちがずらりと並んでいる。
 志望理由に始まり、自己PR、実際の業務を想定した質問への回答などが次々に求められる。時折厳しい突っ込みを入れられることもあったが、すべての質問に対し、玲奈ははきはきと答えていた。
 その表情や口調、話す内容からは、この会社への就職を熱心に希望していることが伝わってくる。
 それもそのはず。この会社は、現在手がけている分野において成長著しく、大いに注目を集めているのだ。職場環境の評判も良く、玲奈も大学のOGから、いかに設備や制度が充実しているかを聞かされていた。人間関係も良好で、セクハラの噂を聞くことすらないという。

 ひと通りの質問が終わり、わずかに間が空く。弛緩した空気が流れ、試験の終了を察した玲奈も、内心でほっと息をつく。
 しかし、役員の1人が投げかけたのは、労いの言葉でも別れの挨拶でもなかった。
「それでは、引き続き適正試験を受けていただきます」
 一瞬、玲奈が怪訝そうな表情を浮かべそうになる。
 「適正試験」というのは、最初に受けたペーパーテストのことではなかったのだろうか?
 それに、これが最終試験ではなかったのだろうか?
 この段階に来て新たな試験が課されるというのは、彼女には予想外のことだった。
 一方、役員たちは先ほどまでの厳しさから一転、にこやかな表情を浮かべている。
「ああ、大丈夫。何も身構える必要はないですよ。むしろ、リラックスしていただいた方が良いですから」
「は、はい……うっ? くっ……あっ……はっ……」
 戸惑いつつも返事をしようとした玲奈だったが、突然、苦しそうに顔を歪めて呻きだしてしまう。まるで急激な寒さに耐えるかのように、両腕で自分の身体をぎゅっと抱きしめている。
「……大丈夫かい?」
 一応、面接官が声を掛けてはいるが、あまり心配そうな雰囲気ではない。むしろ、彼女の様子をニヤニヤしながら眺めている者すらいる。
「あ……くう……ん……ふうっ。ええ、大丈夫です。どうぞ続けてください」
 玲奈の方も、すぐに呼吸を整えると顔を上げ、何事もなかったかのように笑顔で応じた。
「それでは改めて、適性試験を開始しましょう」

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2008年05月04日

黄昏時の彼女(後編)

 その日から、ヤツは頻繁に沙夜香に乗り移っては、その肉体を弄び、俺を翻弄して楽しんだ。
 現れるのは、たいがい夕方の、下校中。稀に学校にいる間に憑依して、待ち合わせ場所にやって来ることもある。そんな日は、歩いている間中、ヤツの話に付き合わされる。誰それの胸がデカイだのあの子はまた男とヤッたらしいだのという話を沙夜香の口から聞かされるのは、かなり反応に困る。そんな俺の様子をヤツが面白がっているのも癪に障る。
 あまりに沙夜香の周囲の娘に詳しいもので、まさか俺の見ていないところでも沙夜香として過ごしているのではないかと不安になり、問い詰めてみたが「誰がそんな面倒なことをするか。今更学生なんて冗談じゃない」と返された。ただ気の向いた時に近くを漂って、女子高生を覗いているだけらしい。沙夜香の人生を丸ごと狙っているわけではないらしいとわかり、少しだけほっとする。
 とはいえ、ヤツが沙夜香の身体と俺をおもちゃにしていることには変わりがなく、そこには何の救いも訪れてはいない。
 俺の家に帰れば、いつものように淫靡な時間が幕を開ける。

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2008年04月30日

黄昏時の彼女(中編)

 ヤツと再会したのは、新学期になってから、沙夜香と一緒に下校した最初の日だ。
 この日は、付き合い出してから初めての、手を繋いでの下校。いかにもカップルらしい振る舞いに、俺はすっかり舞い上がっていた。これぞ肝試しの収穫だ、と。
 あの日本当に招いてしまったのは、そんなものではなかったというのに。


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2008年04月21日

黄昏時の彼女(前編)

「それじゃ、また明日」
 学校の帰り道。俺の家の前に着いたところで、笑顔で手を振る彼女、橘沙夜香。白く透き通った肌に、長く伸ばした髪の色は艶やかな黒、人形のように整った愛らしい顔と、清楚な美少女のイメージを絵に描いたような娘だ。
 外見どころか性格も控えめ、というかうぶも良いところで、付き合って数ヶ月経っても、沙夜香とは手をつなぐ以上のことはできていない。
 そのこと自体に不満がないわけではないが、優しくて気の利く、俺にはもったいないくらいに理想的な彼女だ。
 だが、この時間。そろそろ――奴が来る。
「――ひっ!? う……あ……」
 突然身体を硬直させたかと思うと、俯いて、苦しそうに震え始める沙夜香。
 俺はそんな彼女を、声もかけずに見つめている。
 心配なわけじゃない。ただ、何もできないだけだ。
 
 やがて震えの止まった彼女は、顔を上げつつ、前に垂れていた髪を掻きあげ、俺に向かって妖艶に笑いかけた。
「――さあ、今日もお楽しみの時間といこうか、リョ・ウ・くん。親はまだ帰ってこないんだろう?」


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2008年03月30日

身勝手な悪霊 初めての憑依

 ――ドンッ!!
 衝撃を感じた瞬間、身体は宙を舞っていた。
 ただし、俺の目の前で。
 たった今、どうやら車に撥ねられたらしい「俺」は、何故か、そのままの位置で道路に立っている。
 ――いや、立っていると言えるのか、これは? 何やら身体がふわふわと頼りない気がするし、靴裏に触れているはずの路面の感触もなければ、両脚にかかっている体重の感覚もない。それどころか、肉体にかかっていたあらゆる負荷がなくなっている、そんな気がする。
 問題はそれだけじゃない。先ほど目の前で中に舞い、ちょうど今、どしゃりと地面に叩き付けられたものまた、俺――俺の身体であるはずなのだ。
 じゃあ、こうしてソレを見ている「俺」は……なんだ?

 まさか――幽霊? 死んじまったってことなのか? こんな……あっさり?

 
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2008年03月23日

身勝手な悪霊 幼馴染の素顔?

「今日もか……」
 部屋の窓から外を見下ろしながら、有紀はため息を吐いた。視線の先には、とぼとぼと歩く一人の男子学生の姿がある。
 有紀の幼馴染、健太だ。保育園から高校まで、ずっと同じところに通っている。小さいころは随分な仲良しで、いつも一緒に遊びまわっていた。だが、小学校も高学年に上がるころには、微妙に距離を感じるようになっていた。意図して疎遠になったわけでもないのだが、、女子には女子、男子には男子の交友関係があり、自然と接する時間が減っていったのだ。今通っている学校にしても、偶然、学力レベルが一緒だったに過ぎない。
 とは言え、決して嫌いになったわけではない。なんとなく様子は気になるし、それなりに交流もあった。ただ、最近は接触する機会がめっきり減っている。

 最近、健太は学校でいじめにあっている。クラスが違うのですべてを把握しているわけではないが、からかわれたり、小突かれたりしているのを見かけることがある。身体も細く、運動神経もあまり良いとはいえない健太は、相手を力ではねのけることは出来ない。また性格的にも、動じずに過ごせるというわけではないようだった。
 俯いている健太を見る度にもどかしい気持ちになったが、どう接すれば良いかもよくわからないし、自分が止めに入るのも拙い気がする。
「なんとかなんないのかなあ……」

 ――憂い顔でそう呟く有紀は、自分の背後に近づく影があることには気付かない。

(ぱっと見、凄く酷い状況には思えないけど……まさか自殺したりなんかしないよねっ?)
 縁起でもないことを想像したせいか、有紀はぶるっと身を振るわせる。
(もうちょっと頼もしくなってくれないかなあ…… はあ、なんか、やってあげられることってないのかな)
「それなら、あたしがこの身体を使って、健太をオトコにしてあげよっか?――って、ちょっ!? 何今のっ!!」
 今、自分が何かとんでもないことを口走った――そのことに驚愕した瞬間、有紀の意識は闇へと落ちていった。


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