ちょっと近道をしよう。
彼女と一緒の時に、それも既に日の落ちた時間に、そんなことを考えたのがいけなかった。
ビルとビルの隙間、薄暗い路地裏を通っている時に、彼女と繋いでいた手が「きゃっ!?」という悲鳴とともにぐいっと引っ張られ――引き離された。
「な、何?! やだ、離して!」
「千紗!?」
振り向くと彼女――千紗を後ろから羽交い絞めにしている男がいる。男、なのだろう。レンズに色のついた眼鏡とマスクをしているので顔はわからないが、体格から見ても男に間違いない。
いや、そんなことはどうでもいい。もっと恐ろしいのは、男の袖口から、銀色に光るなにかが姿を覗かせていることだ。
もしかして、刃物か何かを持っているのか?
「いや、た、助けて!」
「お、おいお前! 千紗を離せ!」
内心震えながらも声を張り上げると、今まで黙っていた男の口から、くぐもった声が漏れた。
「……大声を出すなよ。まあそう焦るな。今から面白いモンを見せてやるからよぉ」
ガタイから想像した通り、男の腕力は相当強いみたいだ。片腕で千紗を拘束したまま、袖口から銀色に光るなにかを引っ張り出した。ずるずると、やけに長細い……ん? あれは、え?
「見てのとおり、ファスナーだよ。ただし、ただのファスナーじゃないぜ。よく見ておけよ」
言いながら、男はファスナーの片方の先端を千紗の後頭部へと近づけていく。
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