2011年07月03日

それはギャグか狂気か真摯な問いか『僕の妹は漢字が読める』

 伏兵にもほどがある。


 発売前からラノベクラスタ外にも一気に話題が広まったので、ご存知の方も多いでしょう。
 
 かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』(HJ文庫)

 舞台は23世紀。
 この時代の日本人は大半が漢字を読めず、21世紀では考えられないレベルで萌えと二次元を崇拝している。
 「正統派文学」はひらがなのみの特異な文体で描かれ、萌えとパンチラと無意味な脱衣に満ち満ちている。
 そんな日本で小説家を目指す高校生イモセ・ギンは、二人の義妹とともに、「正統派文学」の大家オオダイラ・ガイのもとを訪れる。
 敬愛するオオダイラと親交を深めることができたギンだが、ある日彼ら4人は謎の現象に巻き込まれ――

 発売前に興味を持った人の例に漏れず、自分も公式の立ち読みで内容を知って頭を抱えると同時に戦慄を覚えたくちです。
 これはもう実際に読んで頭抱えるのが一番。
 23世紀の日本ってのが、もう狂気を感じる次元ですからね。
 「文学は死んだ」なんてレベルじゃないぞ(^^;

 それで、持て囃されているのがこう……途轍もなく「軽薄」で「低俗」な作品群なわけです。
 オオダイラ文体に至ってはもう、「低俗」とかいう次元ですらなくて、まともな神経では読むことさえできない。


 そんな社会を描くことで、作者は何を見せようとしているのか――凄く気になるから買ったわけですが、ええ、このブログの記事を読みにきてる以上、気になるのは別のことかもしれませんね(^^;
 いいでしょう、まずはそっちの要素について。

 「伏兵」って言ったのはこっちのことです。






 まさかのTS要素。
 一応ぼかして書いておきますが、「謎の現象」に巻き込まれた際、同時に発生した現象が「オオダイラ先生の美少女化」なのです。
 
 あまりに唐突すぎて、欠片も予想がつかんかったわ!!

 ていうか、あんた……いくら
 「ロリコンってのは、自分自身が少女になってみたいと思ってるもんなんだよ!」
 「「「「な、なんだってー!?」」」
 なんて話が実際にあったとはいえ、あんなに人間的に残念な老人が金髪ツインテール美少女(推定10歳)に変身できるなんて、誰が思う。
 誰が思う。

 クソッ……。クソッ……!
 脳内に20人義妹を住まわせてて人前でパンツを頭に被って女児に罵られて涅槃に旅立つような人間が、可憐な少女に変身できるだとっ……?!
 オオダイラ先生は人間的におそろしく残念ではあるが、教養もあるし頭も良い。自分があの時代に生きていれば、敬意を払えるだろう。それは認めるが……くっ。
 
 なんと妬ましい。
 いくら自分が巨乳好きでTSするなら外見年齢15〜35歳ぐらいが理想と思っているとはいえ、愛らしい女児に変身してみたいという願望がないと思うなよっ……!
 しかも基本的には年配者口調とはいえ、かなりノリノリなわけで……クソッ、変態老人め。
 
 いやうん自分の私情を知らしめてもどうにもならないというか創作物としてはむしろ美味しいわけで、挿絵的にも恵まれてましたしよくぞやってくれたと思うわけなんですが、それでも羨ましいという感情は抑えられないわけです。
 
 ともかく。
 まったく予想がつきませんでした、この作品にTS要素があるなんて。
 でも可愛かったのは確かでかつ宣伝する口実が増えたわけで、その点でも嬉しくはありましたさ、うん。


 話が逸れました(このブログ的には普通でした)が、妹漢字の本筋について。
 ありえない、そんな馬鹿な、これはひどい。
 そう言って笑いながらも、23世紀日本の描写は気軽に笑い飛ばせないものがあったと思うんですよ、ラノベ読みにとっては。
 特に、ケータイ小説を読んだことのあるラノベ読みにとっては。

 おそらく、普段小説を読んでいて、かつケータイ小説を読んでみた人間の大半がこう思ったと思うんですよ。
 「こんないいかげんなものは小説ではない」と。
 でも、そこで否定の言葉をぐっと飲み込んだ人もいたわけです。

 何故なら、その言葉はかつて、あるいは現在進行形で、「ブンガク」を愛する者からライトノベルに叩きつけられている言葉だからです。
 わかつきひかるさんの作品も、ライトノベル編集部の人間から「貴女が書いているのは小説ではない」とすら言われたそうですね。
 
 自分たちが読んできたものと違うからといって、安易に否定しても構わないのか?
 見るべきところは本当にそこなのか?

 こういったことを考えてみたことのある人間にとって、『僕の妹は漢字が読める』は間違いなく読む価値のある作品でしょう。
 自分にとっては期待以上に面白かったです。
 もしかしたら作者はあまり深く考えていないかもしれない。
 そう思いつつも、よくこれを書いたなと感心せずにはいられませんでした。

 
 それにしても……色んな意味で、完璧すぎるタイミングで出版された作品ですね。
 作者が見事に時代を読んでいたとも思いますが、運にも恵まれたのではないでしょうか。













 ところでラストの展開。
 自分の脳内では自然ととある曲が再生されてしまい、呼吸困難になりましたよ(^^;
 曲名を言うとネタバレになってしまうので自重しますが……最後までやってくれましたなあ。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/46493835
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
banner4.jpg