近隣の中規模書店には売ってなくて入手に手間かかりました。同じように苦戦する方もいると思いますが、諦めず取り寄せてもらうなりネット通販使うなりして買っておくべきものです。今回で完結巻。
和田依子『少年式少女』2巻(アフタヌーンKC)
「彼女の中で目覚めた“おれ”の魂。
シキの肉体に宿ったタケルの魂。「シキを絶対に助ける」と誓うタケルだが、その魂は徐々に崩壊していく。
14歳、少年の無垢な魂が格闘する!!」
帯に書かれている↑の文章は的確で、非常に重く、シリアスな物語です。
1巻だけを読んだ人は、「少年の魂が少女の身体に入ったことによるドキドキとか、色っぽい場面がほとんどなくて、あんまり美味しくない」と思ったかもしれません。
けどね、TS的な美味しさっていうのは、そういうライトなお約束ばかりじゃないんですよ。本領発揮は2巻収録分からです……!
第9話のタイトルはそのものズバリ、「産むからだ」。
第8話のヒキですぐぴんと来た人もいると思いますが、その通り、生理の話です。
いずれ赤ちゃんを産む準備である生理、それを初めて経験し、痛む腹を抱えて横たわりながら、改めて「自分が女であること」を考えるようになるのです。
単なるTSモノのイベントとしてではなく、ここまで突っ込んだ形で生理を使う作品はそう無いのではないでしょうか。
第10話「つきあうってことは」では、唯一事情を知っている担任男性教師(前セン)の家を訪れた際、彼女のものとおぼしき服とコンドームを発見。先生はここで女の人とセックスをしてるんだな、と考えたタケルは奇妙な感覚に襲われます。
腰のあたりから感じる熱、上気する頬。
性的なことを「女の身で」初めて考えたことによって。
今の自分が男を受け入れる体であるという自覚のうえでセックスを意識したことによって。
タケルは自分でもよくわからないままにオンナの表情を見せてしまうのです。
ここがもう……ゾクッとするほど色っぽい!!
並大抵の作品ではこの顔は描かれない。女の肉体に宿った少年の魂というものを、その意識の変化を真摯に想像しなければ、この表情は描けない。
「女である自分」を意識するようになったタケルですが、その自覚はまだまだ足りず、無邪気な行動が周囲との軋轢を大きくしてしまいます。
男友達の感覚で特定の男子と仲良くしていたため、つき合い始めたと勘違いされてしまうのです。
厄介なのは、「シキがタケルのことを好き」ということを、当のタケル以外多くの人間が知っていた、それどころか完全につき合っていると思われていたこと。
つまり周囲からは「シキ(本当はタケルだけど)は前の彼氏が死んで間もないのに、もう次の彼氏を捕まえた」ように見えてしまうのです。
この噂が一気に広まった時の、女子たちの言葉が怖い。
「すごいよね あの女」
……最近は「女子に嫌われるTSキャラ」というのも増えてきた気がしますが、事情を知られていないとはいえ、ここまで言われたキャラは他にいないでしょう。
「あの女」呼ばわりですよ。
この作品に登場する女子たちの言動やコミュニティのあり方は実に生々しく、無垢な少年であるタケルがまともに会話できた女子はほんの数人だけ。
女性作家だからこそ描ける内容かもしれませんね。
シキの中にいるタケルには、前セン以外誰も気づかない。
誰もがタケルを死んだものとして扱う。
前センですら、シキの中にタケルを見出したわけではなく、特殊な事情があって「見えて」いたに過ぎない。
シキらしく生きようとしてみても、周囲との人間関係もろくに構築できない。
自分を犠牲にしてでもシキを復活させようとしていたタケルですが、「自分が死んだ世界」で孤独に苛まれながら生きていくのは想像以上に辛く、徐々に精神をすり減らしてゆきます。
さらに、ある疑念に囚われて追い詰められたタケルは、自分の中に潜むエゴにも気付かされ――
物語は終局へ。
語るのはここまでにしておきましょう。
不可逆な憑依モノでは、死を扱うのは不可避。
けれども、主人公が周囲の人間にとって死者であり認識不能だということを、他人として生きていかなければならないということを、ここまで徹底して真剣に描き切った作品というのは稀有であり貴重。
女として生きることになった少年というものも、生々しく、真摯に描かれている。
TSを扱った創作物の幅広さを知るためにも、是非読んでおいてほしい物語です。
〜過去記事リンク〜
3年間、大事な少女の体で生きろ「少年式少女」第1話
向き合うのは、誰の不在か『少年式少女』第4話
キャッチフレーズに恵まれた『少年式少女』1巻発売!
2010年11月22日
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