久々の更新ですが、これで復活、とは言い切れなかったりします。とりあえず、この作品だけは紹介しておきたかったので。
単行本で読んでいた方はご存知だったのでしょうけど、最近文庫化された小林泰三『天体の回転について』(ハヤカワ文庫JA)に素晴らしい入れ替わりモノが収録されていましてね!
タイトルは「盗まれた昨日」。
某国の実験によって起こされた現象により、すべての人間が記憶を長期間維持することができなくなった世界。
なんとか復旧を成し遂げた人類は、人工長期記憶システムを利用することで日常生活を送れるようになっていた。
人々は身体に差し込んだメモリに長期記憶を保存することが当たり前になっている。
主人公の女子中学生は「大忘却」後に生まれ、メモリを使って生活することが当たり前である世代。
ある晩、彼女が目覚めると、自分の身体が中年男性のものにになっていることに気付く。
身体に差し込まれているのは、確かに自分のメモリ。何者かが彼女のメモリを中年男性の身体に移したのだ。
それでは今、この中年男性のメモリは女子中学生の身体に差し込まれているのではないか?
状況を調べていくうちに、自分が身体を使っている男性が犯罪常習者らしいということにも気付き、不安に襲われた少女は急いで家に戻る。そこにいたのは……。
――はい、ここまでは言ってしまって良いでしょう。女子中学生と、凶悪犯罪者である中年男性との入れ替わりです!
小林泰三はホラーもハードSFも好きなので殆ど買ってるんですが、こんな美味しいものが隠れていたとは!
対面した少女と男性の会話も素晴らしいですよ。ここはちょっと台詞のみ引用させてもらいましょう。287〜288ページです。
「南出総一郎!!」
「おいおい。それはあんたの名前だよ、おじさん」
「その体を返せ!」
「あんた、何か勘違いしているようだね」「南出総一郎はこの女の子の体を盗んだんじゃない。記憶を盗んだんだ。そして、光川夕実に自分の記憶を植え付けた」
「どっちでも同じことだ」
「いいや。違う。天と地ほど違うさ」「つまり、加害者はあんたで被害者は俺だってことだよ」
入れ替えたのはあくまで記憶だけ。だから、「人間の主体をどこに置くか」によって、互いの立場が揺らいでしまうんですね。
この時点ではまだ屁理屈に思える人も多いでしょうけど、男はさらに実際的な話を持ち出して少女を揺さぶり、脅します。
なんというかもう、ネットのダークなTS小説を読んでいる気分です! 女子中学生の身体を乗っ取った男の非道な言動に興奮せずにはいられません!
まだ美味しい要素は隠れているのですが、そこは実際に読んで楽しんでいただくのが良いかと。
ダークな入れ替わりモノが好きなら確実に楽しめます! この短編だけ目当てに買って損なし!
本編のその後も妄想せずにはいられない終わり方がまたたまりません。
TS抜きにしても、小林泰三ファンとしては、この短編集『天体の回転について』は強くオススメしたいところ。
基本はハードSFですが、宇宙旅行、ロボット工学の三原則を扱った悲劇、思わず噴き出す物理考証ツッコミの雨、『フランケン・ふらん』を連想させるちょっとグロな話、異星人との想定外な接触、いつものクトゥルーネタと作品の幅は広く、それでいて初心者でもついていける濃度。小林泰三入門にぴったりかと。
特に「もしまったく価値観の違う宇宙人が地球侵略に来たら」な「三〇〇万」は面白すぎる。
だって簡単に説明すると、技術奴隷「そんな装備で大丈夫か?」王「大丈夫だ、問題ない」なんだもんなあ……(汗)
2010年10月30日
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/41536228
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/41536228
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
ちょっと探してみます。
コメントに気付くのが遅れてすみません(汗)
これは買った方が良いですよ!
ネットで喜んで読んでいるものと同じノリですからね!