この国で突如として広まった、男を一晩で完全な女性に変じさせるウイルス。
そのメカニズムの解明と感染源の特定と法律の整備とで、世の中はてんやわんやの大騒ぎだ。
まあ、うちの県内に隕石だか人工衛星だか宇宙船だかが落ちて、直後に流行が始まったんだから、ウイルス感染時の症状と合わせて騒ぎになるのも無理はない。
自分はといえば、このウイルスがどこから来たのかなんてことに興味はない。
ただただ、失敗したなと思っているだけだ。
運良く感染し、見事に発症したのに、何故馬鹿正直に病院を訪れてしまったのかと。
ああそうだ。自分は以前から女になりたいと考えていた。こんな一国規模のパニックだって、何度も妄想したぐらいだ。
発症した晩は確かにかなりの苦しみに襲われたが、終わってみれば念願の、若くて美しい女体だ。自分は20代後半の男だったわけだが、今や10代と言っても通用する外観だし、顔といいスタイルといい、青年誌のグラビアを飾っていてもおかしくない。
これで色々楽しみ放題だ！と思ったのだが、念のため病院に行ったことで三ヶ月も留め置かれることになったのは誤算だった。
流行初期だったのが拙かったな……。
発症者からヒトへの感染の有無だってまだわかってなかったし、病院側も色々と調べたがったのだ。
なかなか自由が訪れないことに、最初のうちは不安にすらなった。何しろたった一晩で性別が変わったのだ、また一晩で元に戻ってしまわないとも限らない。楽しみにしていたあんなことやこんなことも経験しないうちに男に戻ったのではたまったもんじゃない。
いや勿論、自分の身体の探索ぐらいはしたよ？
けど、声を殺してこっそりとやってるだけじゃあ、不満も溜まるというもの。
何より、折角容姿に恵まれたのに、医者と看護師しか見せる相手がいないなんて面白くないじゃないか。本当なら可愛い服を着て街に出て、男たちの視線を釘付けにしてやりたいのに！ 相手がいなくちゃ出来ないコトだってあるんだしさ。
身体が元に戻るんじゃないかという不安は次第に消えていったけど、外に出られない不満はつのる一方だった。
まあ、発症者の扱いを国としてどうするのかもすぐには決まらなかったから、外に出たところで車の運転すらままならなくて、不便ではあったんだけどね。
ともあれ、ようやく退院して良いとのお達しが来た。釈放の間違いじゃないのかと突っ込みたくなるが、文句を言っている暇があるのなら数ヶ月分の遅れを取り戻す方に使わねば。この女体を、フルに活用して楽しむのだ。
仕事？
病院に拘束されてるうちに連絡して、辞めさせてもらったよ。深刻な口調で「昔の自分を知っている人間と一緒になんて働けない」と訴えたら、強く引きとめられることもなかったな。
当然、さんざん女性化妄想してた自分が、そんなヤワな神経してるわけがない。若い娘でいられるこの貴重な時間を、真面目に働くだけで潰したくなんてないだけさ。幸いそれなりに貯金してたし、しばらくぶらぶらしてたって大丈夫だろう。
今の自分に似合いそうな服もひと通り揃えたし、まず体験してみたいことといったら――
痴漢被害者、かな。
何度も妄想してたんだよ。満員で逃げ場のない電車内。自分の豊かな胸や尻を這い回る、欲望に満ちた男の手。下着の奥に潜り込んだ手によって、無理矢理引き出される快感。周りにバレないよう、声を殺して悶える自分……。
「んっ……んんっ……ぅ……あっ、はあぁっ……」
はっ！ いかんいかん、またトリップしてたな。男だった頃も、エロ漫画の痴漢シーンを見ては女の側とシンクロしてハアハア言ってたもんだけど、女の身体を手に入れたことで、より生々しく想像できるようになったんだよな。
狙われやすいのはおとなしそうに見える娘だっていうから、髪色は勿論黒のまま。肩より少し長く伸ばしたストレートにしてある。服も地味めに。ただし、劣情を煽るためにミニスカートは外せない。個人的趣味で黒タイツも追加な。高校の制服が手に入れば言うことなかったのだが、そんなツテはなかった。まあ、制服姿だと行動が制限されるから良いことばっかじゃないか。化粧は……特に必要ないだろう、っていうか知識もないもんな。
うん、こんなもんだろう。この格好で、痴漢が多いと噂の路線、その通勤通学ラッシュに乗り込めば、きっと誰かが手を出してくれるはず。
ああ、男の欲望をこの身に受ける時が楽しみだよっ。
…………おかしい。
いや、そりゃあね？ 初回っから手を出されるとは思ってなかったよ？
自分が男だった頃だって、周囲で痴漢を見かけたり、騒ぎになったりしたことはなかったし。大多数の男性がきちんと我慢してることなんてよぉく知ってる。
でもさでもさ。「この路線は痴漢が多い」って情報は新聞でだって見かけたし、被害女性の大半が泣き寝入りしてるとしたら、近くでやってる奴がいたって気付かないわけじゃん。
だから、きっと痴漢はいるはずだと信じてたんだよ。それなのに。
ラッシュに10回乗っても、被害ゼロ。
いやうん落ち着こう自分。10回に1回痴漢に遭う日々だったら、美女美少女は満員電車になんて乗れやしない。
だから、これは普通。普通の乗車体験……のはずだ。
しかし自分は移動のために電車に乗っているのではない。毎回毎回、痴漢に悪戯されることを期待して電車に乗っているのだ。ただ脳内で想像だけしていた日々を加えれば、10日どころではない。何年も前から期待していたと言ってもいい。
加えて、今の自分の容姿だ。
都会を歩いていれば、どっかの雑誌から声が掛かったっておかしくない、と思う。正直に言って、自信があった。男からいやらしい目で見られる自信があった。
それなのに……なんで、なんで誰も手を出してこないんだ？
こっちだって何も考えずに乗っていたわけじゃない。ちゃんと周囲に男しかいないエリアを狙ったり、若い男にさり気なく身体をくっつけてみたり。ちょっと抵抗はあったけど、エロそうなおっさんのすぐ前に立ったり。
だが、いまだに「偶然を装って手の甲をお尻に押し付けてくる」程度の行動も見られないとは……。
ええい、お前らはあれか？ 昨今流行りの「草食系男子」ってやつか？
どうせ家にかえったら、俺の美少女っぷりを思い出してオナニーしてんじゃないのか？
無理に欲望引っ込めてんじゃねえよ一人ぐらい勇気出して触ってこいよ！
……ああ、わかってる。自分がどれだけ理不尽なことを言ってるかはわかってる。
彼らは高いリスクの前に躊躇っているのだ。法による処罰。下手するとそれ以上に深刻な、社会的信用の失墜。家庭・人間関係の崩壊。
それらを承知でなお手を出してくる者など、頭の弱い性欲猿か、超低確率で一時的な気の迷いに侵された人間だけだろう。
いくら毎日エロいことを考えていても、実際痴漢に、犯罪に走る男などごく一部なのだ。
わかってんだけどさ……もう、我慢できないんだよ！
だって我慢はもうさんざんしてきたんだよ！ 身体が男だった頃に！ 夢だったんだよ自分にとってはさあ。
今は男の欲望を受け入れられる、美しい女の身体なんだ。妄想しながら一人寂しくオナニーするだけとか、今までと変わらないじゃないか。これ以上……空振りはごめんなんだよ！
……そうだ。自分から手を出す度胸のないやつだって、こっちがもっと露骨に誘ってやれば、応じてくるんじゃないだろうか。
男どもは我慢してるに決まってるんだから、触っても良い相手だって安心させてやれば……。
うん、そうだよ。こうなったら自分から積極的にアピールしないとね。
こんなに綺麗な「女の子」に触られて、嫌がる男なんていないはず。
ふ、うふふふ。
翌日。期待の狩場である一部指定特急の自由席車両に乗り込んだ自分は、もう完全にスイッチが入っていた。
やると決めたからには、空手で帰るなんて考えられない。なんとしても収穫を手にするんだ。上手くいって、第二ラウンドに持ち込めた時のために、下着も勝負用のものを着用している。
椅子などには目もくれず、両側をドアに挟まれたエリア、最も人口密度が高くなる空間で様子を見る。
今日はツいている。
二駅目で、自分好みの可愛い男の子が乗ってきた。ちょっと小柄だけど、私服ということからして大学生ぐらいだろうか。
おとなしそうな雰囲気だし、まだ童貞かな？ ふふ、おねーさんがイイことしてあげるからね。
車内に乗り込む人の流れに合わせて、さり気なく彼に近づいていく。だが、まだ手は出さない。混み具合が不十分で隙間が多い。今動けば目立つ。
さらに次の駅。降りる客もいるが、乗る客の方が多い。人口密度が限界に近づく。幸い、彼が降りる様子はない。ここで上手いこと後ろに回り、体を密着させる。特急だから、次の停車駅までは充分な時間がある。ここが勝負だ。
流石に、今までよりずっとドキドキするね。
待ちの姿勢で期待に震えていただけの時と、自分からアクションを起こす時とではやっぱり違うや。
ここに来て多少の躊躇いも感じる、けど、既に体の内から熱が湧き上がっている。太腿を擦り合わせたくなってくる。もう抑えてなんていられない。
周りに怪しまれないように注意しながら、手をそっと彼の腰に触れさせる。性的な意図をもって男性に触れるのは初めてだ。酔っ払った時とか、どさくさ紛れに抱きつきたいことは何度もあったんだけど、ずっと我慢してたから。
思い切って、手を体の前に回す。そこからそうっと下におろしていくと、ズボンを押し上げる膨らみに触れた。
「っ……？」
彼も気がついたようだ。体が瞬時に強張ったのを感じる。男の痴漢と間違われても困るし、上半身をより密着させよう。自慢の胸の膨らみが、彼の背中に押し付けられてぎゅっと潰れる。
どうかな？ 伝わってるかな、この柔らかい感触。
ね、こんな良いおっぱいの持ち主が、今君のおちんちんを触ってるんだよ。
体硬くするんなら、さっさとおちんちんの方も硬くしなくちゃあ。
ズボン越しに触れていても、彼の亀頭の輪郭が、カリのくびれ具合が指先に伝わってくる。凄くいやらしい形。他人のこんなにいやらしいモノを触ってるんだ……ああ、はァ。
自分の心臓の鼓動が凄く早くなってる。彼の背中に伝わってるだろうか、わたしの興奮が。
はああ、もっと、もっと気持ち良くしてあげるからね。
ファスナーを下ろして、手を中に突っ込む。下着の奥の、熱い塊に直接触れる。
「……！ ぅ……！」
びくん、と彼の全身が震えた。あは、こういうことされるの、初めてかな？
まだ半勃ちといったところ。位置的に、わたしの顔やカラダを見せてあげられないのは残念だけど、ちゃあんとテクで愉しませてあげるからね。
ほんの数ヶ月前まで自分のモノを弄っていた時のように指を蠢かす。どこが感じるかなんてよくわかってる。見る見る、彼のモノが大きくなってくるのを感じる。彼の欲望を感じる。凄く嬉しい。
「っ……！ ……っ！」
柔らかくてほっそりした、女の子の指でおちんちん弄くられるのはどんな感じかな？ わたしはついぞ経験することがなかったけど、きっと気持ち良いよね。だって、これだけ反応してるんだから。
ああ、いけない。息が荒くなるのを抑えきれない。周りに気付かれてないといいけど。
でも、この男の子には気付いてほしいな。わたしがこれだけ、キミのオスの部分に発情してるよって。
だから、耳元に吹きかけてあげる、この熱い吐息を。
あは、また震えたね？ どぅお？ 女の子にこれだけ求められてるのって、どんな気分？
わたしだってね、男だった時は、女の子に襲われる妄想もしたし、興奮したもんだよ。だから、キミも興奮してるよね？
「……ね、どう？ 気持ち良い？」
ああ言っちゃった！
ちゃんと聞こえたかな？ 周りには聞こえてないかな？
ね、ね、淫乱女の甘い声、ちゃんと脳髄に染み渡ったかな？
うん、ぬるぬるしたものが出てきてる。これで指の滑りも良くなったね。さあラストスパートかけてあげるよ。わたしの指使い、たっぷり堪能してね。
「ぅ……。んくっ……！」
ほらほら声は我慢してよ。二人っきりの時はたっぷり聞かせてほしいけど、今は場所が場所だからね。お互いバレない方が良いでしょ。
でも仕方ないかな。そろそろ限界だもんね。ふふ、おちんちん張り詰めてるの伝わってくるよ。わたしのアソコも、さっきからずっと疼きっぱなしなんだから。さあ無理しないで。わたしの手の中にあっついの解き放って！
「っ……！！ ふぁっ……！！」
ははっ。出てる、出てるよ。凄い勢い！ 熱いとまではいかないけど、あったかいのがたくさん！
やったよ。試したことなかったからちょっと不安だったんだけど、ちゃんとわたしの手で男の子をイかせることができたんだ。
あ。しまった。ここじゃあせっかくの精液舐めることもできないよね……。失念してたなあ。
仕方ない。服につかないように気をつけて手え引っ張り出して、ハンカチで拭っとくしかないか。
お、そろそろ駅に着くな。良いタイミングだね。この子が乗り気なら、この勢いでホテルにでも――
がしっと、腕を掴まれる感覚。
「……あ、あの！ この人、痴か……その、無理矢理っ……」
――え？
いや、その、キミ、何を言ってるのかな。そんな、痴漢に遭った女の子みたいな反応……。ちょ、ちょっと、キミも気持ちよかったんじゃないの？！
え、ええ？ なんか、周りから視線が大量に突き刺さりつつあるんですけど。
肝心の男の子は、もう顔真っ赤にしてうつむいちゃってるし。でも、手は離そうとしないのね。
えと、ちょっと、これかなり拙い状況なんじゃあ。
慌てて周囲を見回した自分の目に、近くに立っていたイケメンの顔が映る。うわ、こっち狙うのもアリだったかなあ――じゃなくて！ こうなったら適当な男に甘えて誤魔化して逃げ切らないと！
「あ、あの、なんかこの子――」
「俺も見てました。コイツ痴女ですよ。警察に突き出しましょう」
容赦なく、冷たい言葉が降り注ぐ。
嘘、だろ。男にとって、綺麗な女の子にエッチなことされるなんて、ご褒美じゃないかよ。なんでそんな、敵でも見るかのような目で。
さらに顔を動かすと、目の合った女性から、心底軽蔑するかのような視線を投げつけられる。弁護は……期待できそうにない。
なんで……どうして、こうなった？
★あとがき★
このお話は、どうせ妄想に決まっています。
現実の人物・事件・路線など、関係あるはずがありません。
これはひどい（爆）
何を書いてるんだってところですが、思いついたら書かずにはいられませんでした。
いやね、ちょっとシミュレートしてみたんですよ。自分が可愛い女の子になれたら、何をしてみるかって。
そしたら、痴漢を期待して満員電車に乗るのは絶対だろうなって。
でも、もし誰も手を出してこなかったら？ すっごいショックなんじゃないの、って。
果たしてそのまま引き下がれるのか、なまじ男の時より自制が利かなくなってるんじゃないのか――ということで、こんな展開を想像してみました（＾＾；
裏づけは取ってませんが、痴女の被害に遭った男性は一様に不快感を覚え、被害を訴えることもできずに深く傷つく場合が多いそうです。
女性不信になって、結婚を約束した彼女と別れてしまった男性もいるとか……。あとやっぱり、可愛い子とイケメンが狙われやすいそうです。
痴女被害を増やさないために、生命科学の規制が求められますね！（笑）
果たしてこんなくだらないものを楽しめた人はいるのだろうか……。
2010年03月21日
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楽しめましたー。
確かに私もこうなりそうだｗ
はい、こんなんなっちゃいました（＾＾；
楽しんでいただけて幸いです。
いやあ、我慢できないと思うんですよねえ、多分。欲求不満にならないうちに、お相手を見つけないと。＜獲らぬ狸の皮算用
サブ名の「軍略家」通り、警戒心の強い私は友達を楽しませてやめる可能性がｗ＾＾
エロ漫画脳な自分は、女になった方が危険なのでした。
まあ、欲求不満になる前に、さっさとセフレ捕まえるべきですよねー（爆）
いつの日か、こんな世界がくるのかも！
私も女性化したら、まずは体を探索＆堪能してから皆に見せびらかしたいですね。
体に合った、スリムな服が着たいですよ。
痴漢もされてみたし、してみたい！
それにしても、男女共に痴漢被害者は泣き寝入りする方が多いのですね。
私はどちらの体験もないので何とも言えないのですが、一度くらい痴女に出会ってみたいものですｗ
楽しませていただきました～！
お読みいただきありがとうございます!
男から性欲の漲った視線を向けられてみたいのです！（爆）
念願叶って女になれても、男がエロくなかったら困りますよね。
外見が嫌いじゃなければ痴女に遭ってみたい、という男性も多そうな気がするんですけどね。どうやら男にも下手に手を出せないようです。気をつけないと（笑）
あー確かに女になったら一度は痴漢されてみたい、男を誘惑してみたいとか思うですね。
でもまあ、やっぱ現実はエロマンガのようにうまくいかないなｗ
お読みいただきありがとうございます！
楽しんでいただけて良かったです。
一度はやってみたいんですよねえ、こういうコト！
女の子相手にエロ漫画みたいなことやっても捕まるし、男の子相手にエロ漫画みたいなことやっても捕まるとは…･･･現実世界は厳しいぜ（笑）