はい、帯に書かれたキャッチフレーズを変換して並べ替えただけの記事タイトルですね。
しかし、押し出すべき部分は間違いなくそこだと思うのですよ! その三つの要素が実にバランス良く、それぞれかなりのクオリティで書き上げ編み上げられていますからね。いっそ帯の文句そのままでもいいかと思ったぐらいですし。正しい売り方されていますね。
壁井ユカコ『クロノセクス×コンプレックス@』(電撃文庫)
平凡な時計屋の息子・三村朔太郎は、高校の入学式へ向かう途中に、返却する時間と場所を指定された奇妙な修理品の時計を届けるため路地へと入る。そこで見知らぬ少女とぶつかり、謝ろうとするも目に入るのは駆けていく男子学生の後姿のみ。不思議に思いながらも、時間の狂った奇妙な路地を進んでいくと、辿り着いたのは見知らぬ学校の入学式。そこに至って、朔太郎は自分がその学校――「クロックバード魔法学校」に入学予定の少女“ミムラ・S・オールドマン”になっていることに気付く。路地の入り口でぶつかった時に体が入れ替わったのだ。
元の世界に戻る手段もわからず、少女ミムラとして魔法学校に通うことになった朔太郎。そこは時間を操る魔法を学ぶ学校で――
超・面白いです!!
まず魔法学校に迷い込むまでの描写が素晴らしい。平凡な日常とファンタジーな異世界との境界線が緩み、誘い込まれていく時の不安感とワクワク感はまさに理想的! 小道具も良い仕事してますね。
またTS方面の描写ですが、トイレ前の葛藤が書かれていることに感激した!
いやこれは別に下卑た理由ではないのですよ。
長期間女の身体で過ごさねばならないのなら、「着替え」「風呂」「トイレ」の三大ハードルは絶対避けられないはずなのです。特に排便は不可避であり、思春期の少年が何の感慨もなしに乗り切れるわけがない。
だから、女の身体でトイレに行っているはずなのに、そのことに一切言及しないとなるとすっっっごく不自然。登場人物人間ですよね?と突っ込みたくなってしまいます。
にもかかわらず、着替えや風呂に比べて飛ばされる率の高いこと……。1行。1行書くだけで良いのに。
その点、この作品はよくわかってました。
しかしこればっかりは着替えや入浴以上に三村にとって難易度が高かったのだ。好奇心というレベルを通り越して脅威ですらある。
(1巻79ページより)
とすら書かれていたので、男子心理への正確な理解に感激です。着替えや入浴シーンは確かにウリになるから、商品で優先的に使われるのはわかる。けどね、萌えれば良いってもんじゃないんだよ、萌えれば良いってもんじゃ。
さてストーリーの方へ。
男っぽい性格を武器に「王子様」キャラとして自分を売り出すことになってしまったり、女子寮を統べる生徒会みたいな組織の候補者に推挙されたり……なんてことがカバー折り返しあらすじやらカラー口絵やらに書かれているので、ああはいはい女子校でちやほやされるTSライフのパターンですねなんて思ったりもしたのですが――そんな甘いもんじゃなかったよ!
いや、確かにギリギリなスキンシップがあったり、女の嫌な面を散々見せ付けられてショックを受けたりとかそういうことはあるんですけどね。
ちやほやされて、ちょっとしたトラブルがあっても乗り越えて、順調に進んでいけばエンドに辿り着ける、なんて簡単な話ではないのです。
ちょっとしたトラブルどころか、洒落にならない騒動が起こってしまいますので。
ここで舞台の中央へと踊り出るのが、時間モノとしての要素です。
「クロックバード魔法学校」は時間を操る魔法を学ぶ学校。
この学校で勉強することで、ある物・ある範囲の時間を加速させたり、停止させたり、遡らせたりといった現象を引き起こす時間操作魔法が使えるようになります。
学長も最初に「諸君は時間を巻き戻すことができればと思ったことはないかな?」なんて言いますし、朔太郎がある後悔を引き摺っていることを知っている読者としても、その魔法の習得がエンディングの鍵となるのでは?と期待したくなります。
しかし、時間の修正とは歴史の修正。非常に繊細なものであり、下手に手を出せば手痛いしっぺ返しを食らいます。
では、実際に時間操作魔法が引き起こした騒動とはどれほどのものだったのか――は、実際に読んでもらうとして。
……いや、既に説明しすぎた気もしますけど。
ぎょっとする展開もありましたが、時間モノが好きな人間としてはたまらないものがありましたね。
『夏への扉』の一節が引用されているところからも、そういった時間SFへのリスペクト作品であることはすぐにわかるのですが、『夏への扉』や『時をかける少女』が思った以上に重要な役割を与えられていてびっくりしましたよ!
何しろ、この魔法学校では文学の授業で習うのです!
人間の想像力が秘める可能性を学ぶためだそうで、その知識は実際に魔法をつかう際の補助としても用いられます。
いやー、これは面白い。
時間を操る魔法を学ぶ学校、というのは実にワクワクさせてくれる舞台です。
しかし同時に、そこで巻き起こった騒動と、その最中で出会ったとある人物の存在は大きな不安を与えてもくれました。
「彼」の正体はだいたい想像がつくのですが……だとすると、ハッピーエンドに辿り着くのはそう容易ではないはずです。正直、入学当初には想像もつかなかった展開で、怖く思いつつも胸が躍って仕方ありません。
1巻の間でもかなり大きく物事が動くので、どの程度続くのか想像できませんが、既に取り掛かられているであろう続刊の内容が実に楽しみですね!
そうそう、「洋画に出てきそうなファンタジー」と「海外古典時間SF」と言うと「それTSと組み合わせちゃって良いの?!」と思われるかもしれませんが――もっと大枠、「ファンタジー」「SF」という括りで考えるならば、これほどTSと親和性の高いジャンルもないんですよね。TSと相性の良い二大ジャンルこそファンタジーとSF。
そして、それらに分類される作品の比率が、漫画に比べて圧倒的に高いからこそ、ライトノベルでは頻繁にTSモノが出版されるのでしょう。
2009年11月09日
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