「「男の娘」「女装少年」マンガは猛烈に増えたけれど、性転換物は意外と少ない?」
という声を受けて、それは言えてるかもしれないというお話。主に外部向けかも。
(実は前回の記事を上げる前に途中まで書いたんですけど、膨らみすぎてカットしたのですわ)
一昔前に比べると増えたとはいえ、女装少年に比べればTSはまだまだマイナー。知名度低いです。
女装少年は割りと頻繁にメイン張っていたり、不意打ちのように飛び込んできたりしますけどね。(おかげで『エデンの檻』を見逃せなくなってしまったり。)
隣接ジャンルであり、一見似たような性倒錯系のものと思いきや、何故供給量に差が生じるのか。
簡単に思いつく理由のひとつとして、「TSは女装少年と同じような方法では描けない」というのがありますかね。
・TSが許容される世界、許容されない世界
まず、「女装少年はたいていの世界に普通に存在できる」んですよ。
というか、現実世界に存在してますもんね、「女と見分けがつかないほど可愛い女装っ子」ってのが。流石に女装して学校通ったりはしていないと思いますけど。
現実に存在する以上、架空の世界に登場させるのはもっと簡単なわけで。
もうちょっと言い方を変えますと、「女装少年が登場できる特別な世界」を構築する必要がないんです。(「女装少年が登場できない世界」なら、意識的に構築する必要があると思いますけど。)
だから女装少年は、作品の中でメインを張っていなくても、脇役やゲストキャラとしてぽんぽん気軽に登場させることもできます。
その一方でTSキャラとなると、それ単体を「現実世界準拠の作品世界」にいきなり登場させるのは困難です。
変身にせよ入れ替わりにせよ憑依にせよ、それら不可思議な方法で性転換を引き起こすための、道具なり事件なりが必要になります。
性別を変化させる魔法なり、人格を交換する装置なりが存在し得る世界。その存在が許容される作品世界を最初に用意しないといけないわけです。ファンタジー方面であれSF方面であれ。
ドラマの『転校生』や『パパとムスメの7日間』などは「現実準拠の世界」に見えるかもしれませんけど、序盤で人格(精神)の入れ替わりという「現実ではあり得ない事件」を出しちゃってますからね。その時点で、もう作品世界の説明、ファンタジー宣言は済んじゃってるわけです。
なんらかの形で「この作品世界は現実世界では起こり得ない不可思議現象が起こっても良い世界だ」という説明・宣言がなされていない作品でTSキャラ・TS展開を登場させてしまったら、作品がガタガタになります。
具体的には――そうですね、「『とらドラ!』の本編で竜児と亜美の身体が入れ替わってしまったらNG」と言えばわかるでしょうか。
『マリア様がみてる』の本編で祐麒が女体化してもNGですよね。
(これが二次創作ならOKになるんですけど)
また、いくら現代科学で説明できないような不可思議現象が起こる作品世界でも、それがTSを許容する方向性の不可思議さでなければ、TSキャラ・TS展開は使えません。
『エデンの檻』に女装少年は出せますけど、TSっ娘は出せないのです。
脇役としてTSキャラを登場させようなんて思うものなら、それこそ魔法(的なもの)が普通に存在する世界を最初から用意しなきゃなりませんね。
・一枚絵で表現できるか?
女装少年なら、最短の場合1コマあれば説明が済みます。少女と見紛うばかりの可愛い男の子を描いて
「藍川絆です! こう見えても男です」
と言わせればそれでOKですもんね。そして、それ以上細かい背景を説明しなくても、すぐに物語を動かすことができ、かつ魅力的な作品にすることも可能。
なんなら、まったく言葉を用いなくても、イラスト一枚で「ああこの子は女装少年なんだ」と理解させることもできます。
身体が男の子だってわかればいいんですから。
一方、TSとなると、女の子のイラスト一枚あるだけでは、その絵が意味するところはわかりません。
その女の子は、男が憑依しているのか? 男と入れ替わっているのか? 男が変身しているのか?
っていうか、常識的に考えて、正真正銘生まれついての女の子なんじゃないのか?
……男が憑依しているにせよ男と入れ替わっているにせよ男が変身しているにせよ、説明を付け加えないと「イラストの女の子はTSと関わりがある」ということすらわからないのです。
漫画となれば、何ページも費やして、性転換に至るまでを描くことになります。
たとえば石田敦子さんの『魔法少年マジョーリアン』の場合、最初の変身が完了するまでに14ページ。
森永あいさんの『僕と彼女の×××』で主人公たちが入れ替わるまでに15ページ。
和田依子さんの『少年式少女』で主人公の少年が親しい少女に憑依するまで、17ページぐらい使っています。
手間暇かかってますよね。
TSのための理屈やら、before afterの人間関係やら、用意するものはいっぱいです。
そうそう、「変化」はTS作品の重要な要素ですから、性別が変わった後のみならず、性別が変わる前の当人や周囲の環境だって、出来るだけきちんと描いておく必要があります。
勿論「絶対に懇切丁寧な説明が必要」なんてわけはありませんから、ページ数が少ないんなら少ないなりの描き方はあります。
けれど、説明を端折れば端折っただけ、その後に描ける物語は限られてしまうんですよね。
わたしがよく「TSエロ漫画は最低でも前・中・後の三編欲しい」と言っているのは、以上のような、TS創作にまつわる事情があったのです。
そのうえ、「女の子になった男の子の感覚って、どんなよ」という難題もあるわけですが――この説明は省略しても良いですかね。何で難しいのか、考えればわかると思いますし。
まあ、そこを頑張って想像しながら描くのが、各作家の腕の見せ所とも言えるのですが。
と、TS創作におけるハードルを語ってまいりましたが――
それらの障害を乗り越えて、新たな作品を世に出してほしいものです。また、見事に乗り越えた魅力的な作品がもっと人に知られるようになると良いですね。
2009年10月01日
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