今回ばっかりは、読み出すのに結構勇気が要りましてねー。
志村貴子『放浪息子』9巻(ビームコミックス)
8巻ラストで、土居くんに唆されて一線を越えてしまった二鳥くん。
心配したとおり、周囲の無理解(しかし、それは当然でもある)に晒されて、大きく傷つくことになります。
「ぼくだけ保健室につれてかれて
ぼくだけお母さんが迎えに来た
ちーちゃんや高槻さんを誰も笑わなかったのに
ぼくだけ笑われた」
(9巻46〜47ページより)
それなんですよね……。
女性化願望のある人間や、女の子の服に憧れている人間にとって何が辛いって、多くの人間に「変なやつ」「気持ち悪い」と思われてしまうことなんですよ。
場合によっては露骨な排斥を受けます。小中学校なんて、まず居場所がないでしょう。心の底から嫌われてるわけでもなく、面白半分の排斥も相当な割合を占めるだけに、キッツいです。
当人が真剣に悩んでるなんて考えもせずに、余計なことを言って引っ掻き回すやつもいる。
女の子がズボン穿いてたって、誰も笑わないのにね。
ただし、二鳥くんが恵まれてたのも事実。
理解者も少なくないですし、堂々と女装できる機会もありました。
そして何より、ぱっと見では女の子と見分けがつかないほど、可愛い。
けど……けどねー。
「女のかっこしたいっていうのはさ わかんなくもないんだ
あんだけかわいけりゃ そりゃ その気にもなるよなって
でも
その先は?
あいつ あのまま大人になるとでも思ってんのかなって」
(9巻124〜125ページより)
今みたいに可愛いままでは、いられないでしょう。
二鳥くんの体が変化していくのはこれからです。
本当に辛い現実、限界を突きつけられるのは、これからかもしれないんですよね。
「可愛い服を着る」だけが女の子ではないですし。
あー、ホント、これからどうなるんだろう。
……それにしても、なんでこう「普通」の描写がずば抜けて上手いんだろう、志村さんは。
2009年08月05日
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今巻は読んでて辛かったですね。
この先の二次性徴で、にとりんがそれに
どう向かい合っていくか興味があります。
あと、この作者は心情表現も上手い
と思います。そういうのが大好物な自分に
とってユキさんの過去話は少し考えさせら
れる内容でした、物心ついた時からの性への
違和感などならともかく、にとりんや
ユキさんの様な思春期から芽生える女性への
言い方は悪いですが「変身」願望というのは
あまり考えた事は無かったです。
まぁ、ほとんど無意識と直感だけで生きてて、
幼稚園の頃から女性化願望があった事を、
今更ながらに自覚したのが25歳だった自分
の様な人も居るから、何かのきっかけで、
そういう生き方に目覚める人もいるのかな、
などと思いました。
来るべきものが来たというか……痛々しかったですねえ。
志村さんは絵も言葉もかなり抑制しているのに、人物の心情を表現するのが実に巧いと思います。
もともとうっすらと違和感を抱いていて、性差がはっきり現れ始める思春期に願望が顕在化する、ということもあるでしょうね。
二鳥くんは「女の子になる」ということをどこまで想像できているのか、まだちょっとわからないところがあります。
ユキさんとも違うタイプですし。多分ユキさんはそのことに気付いているので、答えを急がせないんでしょうね。わたしも明確な答えは授けられません。
まだ二鳥くん自身が、もっとじっくり考える必要があるでしょうね。