2009年08月05日

「普通」との対面『放浪息子』9巻

 今回ばっかりは、読み出すのに結構勇気が要りましてねー。

 志村貴子『放浪息子』9巻(ビームコミックス)

 8巻ラストで、土居くんに唆されて一線を越えてしまった二鳥くん。
 心配したとおり、周囲の無理解(しかし、それは当然でもある)に晒されて、大きく傷つくことになります。

「ぼくだけ保健室につれてかれて
 ぼくだけお母さんが迎えに来た
 ちーちゃんや高槻さんを誰も笑わなかったのに


 ぼくだけ笑われた」

(9巻46〜47ページより)

 それなんですよね……。
 女性化願望のある人間や、女の子の服に憧れている人間にとって何が辛いって、多くの人間に「変なやつ」「気持ち悪い」と思われてしまうことなんですよ。
 場合によっては露骨な排斥を受けます。小中学校なんて、まず居場所がないでしょう。心の底から嫌われてるわけでもなく、面白半分の排斥も相当な割合を占めるだけに、キッツいです。
 当人が真剣に悩んでるなんて考えもせずに、余計なことを言って引っ掻き回すやつもいる。

 女の子がズボン穿いてたって、誰も笑わないのにね。

 ただし、二鳥くんが恵まれてたのも事実。
 理解者も少なくないですし、堂々と女装できる機会もありました。
 
 そして何より、ぱっと見では女の子と見分けがつかないほど、可愛い。

 けど……けどねー。
「女のかっこしたいっていうのはさ わかんなくもないんだ
 あんだけかわいけりゃ そりゃ その気にもなるよなって

 でも
 その先は?
 あいつ あのまま大人になるとでも思ってんのかなって」

(9巻124〜125ページより)

 今みたいに可愛いままでは、いられないでしょう。
 二鳥くんの体が変化していくのはこれからです。
 本当に辛い現実、限界を突きつけられるのは、これからかもしれないんですよね。
 「可愛い服を着る」だけが女の子ではないですし。
 あー、ホント、これからどうなるんだろう。

 
 ……それにしても、なんでこう「普通」の描写がずば抜けて上手いんだろう、志村さんは。
posted by nekome at 21:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 女装関連
この記事へのコメント
8巻ラストを読んで、嫌な予感はしてましたが
今巻は読んでて辛かったですね。
この先の二次性徴で、にとりんがそれに
どう向かい合っていくか興味があります。

あと、この作者は心情表現も上手い
と思います。そういうのが大好物な自分に
とってユキさんの過去話は少し考えさせら

れる内容でした、物心ついた時からの性への
違和感などならともかく、にとりんや
ユキさんの様な思春期から芽生える女性への

言い方は悪いですが「変身」願望というのは
あまり考えた事は無かったです。

まぁ、ほとんど無意識と直感だけで生きてて、
幼稚園の頃から女性化願望があった事を、
今更ながらに自覚したのが25歳だった自分

の様な人も居るから、何かのきっかけで、
そういう生き方に目覚める人もいるのかな、
などと思いました。
Posted by くら at 2009年08月06日 18:41
>くらさん
来るべきものが来たというか……痛々しかったですねえ。
志村さんは絵も言葉もかなり抑制しているのに、人物の心情を表現するのが実に巧いと思います。

もともとうっすらと違和感を抱いていて、性差がはっきり現れ始める思春期に願望が顕在化する、ということもあるでしょうね。

二鳥くんは「女の子になる」ということをどこまで想像できているのか、まだちょっとわからないところがあります。
ユキさんとも違うタイプですし。多分ユキさんはそのことに気付いているので、答えを急がせないんでしょうね。わたしも明確な答えは授けられません。
まだ二鳥くん自身が、もっとじっくり考える必要があるでしょうね。
Posted by nekome at 2009年08月07日 21:16
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
banner4.jpg