山田南平さんの『オレンジ チョコレート』(花とゆめコミックス)の1巻が先週発売。
ちょっと週末忙しかったので読むのが遅れましたが、これはすぐに感想上げときたかったですね。
少女漫画家、しかもベテランが描くTSモノということで、安心して読めますよ。
日舞の家元の跡取で人気女形である姫野律と、ひとつ年下の少女・呼水千尋(ちろ)は隣同士の幼馴染。
師匠である父と喧嘩して家を飛び出した律と、彼を追いかけたちろは、近所にある御霊稲荷へと向かう。そこは二人が子供の頃、ジャンケンをしながら階段を駆け上がったお稲荷様。
社の前で「りっちゃんになりたい」と願うちろと、かつて「ちろになりたい」と願った律。その願いは稲荷の狐に聞き届けられ、うたた寝から目覚めた時、二人の体は入れ替わっていた。
一晩眠ると元に戻っていたが、その後も、二人のどちらかが「相手になりたい」と少しでも思う度に入れ替わりが発生するように。
「気付き」〜二人とも事態を把握するまでのシーンなんですけど、これがよく考えて描かれてるんですよね。ちゃんとシミュレートされてる印象。
まず、ちろの体で目覚めた律が、寝ていたことに気付いて慌てて腕時計を確認。しかし何故か(自分の体ではないので)時計をつけておらず、携帯で確認しようとして胸元に手を突っ込んだら「むに」(笑)
隣を見ると自分の体が寝ているので、瞬時に事態を理解し、「律になっているちろ」を叩き起こします。
「起きろちろ!!」
「ん …ん〜?」
「お前 ちろだろ!? 俺は律だ」
「…ちろが もぉひとりいる…」
「違う 俺は律だ ちろはお前だけだけど
この体は お前のだろ!?」
(1巻64〜66ページ)
ここは台詞だけじゃなく、実際に本で表情の変化や間の取り方まで見ると実に楽しめます。
いやあ理解早いですね。けど、顔を見ればわかりますけどパニック寸前なんですよ本当は。
そして、パニック寸前のままに律の自室まで駆け戻った二人は、お互いが入れ替わりをきちんと自覚していることを再確認。ほっと一息……と思いきや、
「おしっこ したい」
速攻で爆弾投下しましたよちろが!
だが正しい!!
いやね、TSモノのラノベとか読んでて、どうにも不満があったのよ。
それがトイレの扱い。
ちょっとエッチな展開大歓迎な(比較的)男性向けレーベルのラノベでは、嬉し恥ずかしお風呂シーンやそれに関連する説明はしっかり出てきます。あと着替えも。
けどね、彼女になった彼らは……トイレに行かんのですよ!
ちょっと待ってよ! 一日二日お風呂に入らなくても死にゃしないけど、一日トイレ行かなかったら一大事よ?!
そして、お風呂や着替えであれだけ大騒ぎするあの子たちが、「トイレは平気」なんてわけもないでしょうよ。
別に放尿シーンを書けと言ってるわけじゃないのよ。ただほんのちょっと「踏ん切りをつけるのが大変だった」とでも書いてくれればそれで納得できるのよ。
でもやってくれない。『鏡原れぼりゅーしょん』も『とぅ うぃっち せる!』も『乙女革命アヤメの!』(これは元も女な可能性が高いけど)も。
男性向けラノベは、エッチはよくてもそっちのシモはNG、なのか?
美少女はトイレに行きませんなのか?
(ちょっと他の作品まですぐには思い出せませんが……)
しかしその一方、少女漫画(いや、少年漫画にもあったか)では、あっさりそこに踏み込んでくれます。
『オレンジ チョコレート』でもこの通り。
「立って? 立って?
立ってするの?」
「座ってでもできるから座ってしろ!!」
「ええ〜!?」
ちっちゃい頃から
りっちゃんは理解力が高くてちろは順応力が高かった
そしてちろは理解力が低くりっちゃんは順応力が低い子だった
つまり
ありえないことを即座に理解できた(かのように見える)りっちゃんは今
とてもパニクっている
ならばっ
(73〜74ページ)
ここで、ドアの向こうから、何とも男子の不安を煽る音声が。
トイレから出てきたちろ(律ボディ)は、非常にすっきりした顔で――
「ちろ大体わかった
いけるいける」
(75ページ)
速攻で順応された!!
こうなると逆に焦りまくって可愛いのが男子です。あれですかね、やっぱり「女は度胸。男は愛嬌」なんですかね(笑)
まあ、律がちろの体でトイレに行った描写はないのですが、この遣り取りを見ていればだいたい想像がつくものです。トイレのトの字も出てこない作品とは違って。
さて、トイレ語りが長くなりましたが、入れ替わりならではのアクシデントは他にもしっかり描かれてます。
律がタレント業もこなす人気女形という設定を活かし、ありきたりなドタバタに留まらない展開もあるのが面白い。
歌手のPVのイメージ映像に使うため、曲に合わせて舞うお仕事があるのですが、その直前に入れ替わってしまい――
「行谷流名取の俺の体だぞ
舞えるから 俺の代わりにやれ」
「なっ なにいってるのーっ りっちゃんーっっ」
(略)
「大丈夫
俺は三歳から舞ってて もう指先にまできっと染みついてる
安心して俺の体によっかかれ」
(111〜113ページ)
はー……。よくこういう場面と遣り取りが思いつくもんだ。
流石ベテラン漫画家だけあって、「人気女形、姫野律」の凄艶な美しさは相当なもので、絵になってますしね。
ああ、主人公がかなり特殊な設定下にある二人ですんで、TSファンにとって楽しめるものなのか?と不安になる人はいるかもしれませんね。
確かに、女の子になった男の子を見てニヤニヤするようなタイプの作品ではありません。
けれども「入れ替わりモノ」としてのクオリティは保証いたしますよ。
男の方がかなり美形なキャラとはいえ、律は「綺麗」でありちろは「可愛い」ので、性質は被りません。律がちょっと険のあるキャラなので、ちろに入ってる時はギャップもありますしね。
あと、学園を舞台にした、入れ替わりならではのアクシデントは1巻終盤から起こり始めます。いやこれどうフォローするんだ、ってぐらいに。
単行本組なんで連載の内容は把握していませんが、続きにも充分期待できるんじゃないでしょうか。
2009年06月23日
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