街中を歩いていると、どうも人の視線を感じる。
やはり、服装がおかしいのだろうか? 暑いとは思いつつも、今の体を隠せるよう極力サイズの大きめな長袖のシャツを着て、同じくダボダボ気味なズボンを穿いて来たのだが、かえって目立ってしまっているのかもしれない。
顔も変わっているのだから、自分の体が女になっていることを隠す必要はないのかもしれないが、それでも、この姿を人目に晒すことには抵抗があった。
万が一、とかも考えてしまう。
堂々と歩いた方が注意を引くこともないのだろうけど、ついつい帽子を目深に被って、縮こまるように歩いてしまうのだった。
それにしても、女の体というのは厄介だ。
ズボンはウエストがゆるゆるになるから、ベルトを締めさえすればなんとかなるかと思ったら、尻から太ももにかけてはむしろキツくなっており、普段使っているジーンズなどはとても入らなかった。
そしてこの大きな胸だ。下手な服を着ると目立ってしょうがないし、歩くのに合わせて揺れる揺れる。どうにも走り難いので、仕方なしに歩いているぐらいだ。あまり激しく動くと、付け根のあたりが引っ張られて痛いし。
痛いといえば……乳首にも参った。服を着替えた後、アパートの階段を駆け下りた際、盛大に胸が揺れ――乳首が服の内側に擦れる感覚に、軽い悲鳴を上げそうになった。敏感にもほどがある。
一旦部屋に戻ったものの、当然ブラジャーなんてあるわけもなく……。悩んだ末、揺れるのは我慢することにして、絆創膏で乳首だけでも保護することにした。
その際、自分の乳房をしっかりと見てしまったわけだが……「乳首に絆創膏」というのは冗談みたいな絵面で、恥ずかさのあまりすぐに服を被ってしまった。
目的の建物はすんなり見つかった。人通りも少なく、そう目に付きやすいところでもないが、手書きの地図でも充分だった。
外から直接、地下に降りていく階段があり、降りきったところのドアの前に、男が一人立っている。
多分男だろう、と言った方が正しい。なにせ、この暑いのにフード付きの黒い上着を羽織っているのだ。薄暗い場所で、顔の殆どがフードに覆われていては、人相などわからない。しかも、無言で手を差し出してくるだけだ。何か見せろ、ということだろうか。
「ん……これか?」
説明された憶えはないのだが、他に思い当たらなかったのでマリナのカードを渡してみる。
明りもなしにちゃんと見えるのかと思ったが、男は僅かに頷くと、カードをこちらに返し、ドアを開けた。
ドアのすぐ先は暗幕のようなもので遮られていた。その向こうから聞こえてくる声で、何が中で行われているのか容易に想像がつく。ごくりと唾を飲み込み、幕を捲って部屋の中へ足を進めると、光とともに目に入ってきた光景は、
「うわ……やっぱり」
乱交、だった。
十人以上の男女が絡み合っている。ぱっと見た限り、女の方は皆若くて美しい容姿をしていたが、男の方の年齢には幅があるようだった。部屋の内装は必要最低限のものしかなく、「こういうこと」にのみ使われていることが窺える。
こういうこと。
すなわち、クスリを使ったうえでのセックス、なのだろう。女連中の乱れよう、貪りようは相当なもので、マリナのように感度が高められているのだと思った。
クスリを用いた集団の乱交パーティーと、クスリを用いて女になった自分。
その関係に勘付いていれば、ここですぐさま引き返すこともできたのだろうが――俺はまだ、自分の体の状態というものを、充分に自覚できてはいなかった。
入り口にぼーっと突っ立っている俺を見て、休憩中らしい女の一人が話し掛けてくる。ちなみに、彼女も半裸だ。
「ねえ、キミ新入り? 誰の紹介で来たの?」
「ああ、えっと、マリナに教えられて来たんだけど……そうだ、マリナは? 今日、マリナは来てないんですか?」
ざっと見渡した限り、俺を誘ったはずの彼女の姿は、この場にはいないようだった。遅れて来るのだろうか。
「ん〜、今日は来てないみたいだけど……。ねえ! マリナから何か聞いてる子っている?」
女が呼び掛けると、幾人かから応えが返ってくる。
「ていうか、最近ほとんどココ来てないよ」
「おっ、格好からして新入りだよね。可愛いじゃん」
「何、その子マリナが釣ってきたの?」
「へえ、マリナ頑張ってるう。今ごろ二人目探してるのかな?」
マリナがここに来ていない……? どういうことだろう。それに、所々嬌声が被って聞き取れなかったけど、妙なことを言ってる人もいたような気がする。二人目がどうとか……?
「だってさ。そういえば、キミの名前は? わたしのことはエリって呼んで」
「あ、フミヤっていうんだけど……」
「ふうん、じゃあ「フミ」ってとこかな。まあ楽しんでいきなよ。折角アレ使ってきたんならさ」
意味深な笑みを残すと、エリは部屋の奥へと歩いていってしまう。
「は? ちょっと待てよ、フミって……」
いや、その前にあのクスリのことを訊こうと思っていたのに。
エリを追おうとしたのだが、あぶれていたらしい男たちが目の前に立ちはだかった。
「カ〜ノジョ、新人なんだって?」
「うっわ、全然服合ってないよね。けどそこが萌える! 初々しい!」
「な、俺たちの相手してくれよ」
帽子を取って顔をまじまじと覗き込まれ、腕を掴まれる。相手って……やば、何をぼけっとしてたんだ俺は。こんな体で、こんな場所にいたら、犯してくれって言ってるようなもんじゃないか。
「い、いや、駄目だ。馬鹿、離せって。俺は男なんだよっ」
説得力皆無な言い訳は果たして――思わぬ理由で無駄に終わった。
「何言ってんだよ。当たり前だろ?」
「あれ、もしかしてマリナちゃんから何も聞いてないわけ? かっわいそ〜」
「いや、よくやってくれた! まったく免疫のない新人を寄越してくれるなんて最高じゃないか」
こ、こいつら、何を言っているんだ。俺が男で当然? 男なのに、女の体になってて当然だっていうのか。こうなるってことが、マリナにもわかってたって?
「おい、どういうことなんだ。あのクスリは一体――」
俺の疑問に、男たちが代わる代わる答える。曰く、男を極上の女に変えるクスリ。効果は約十二時間。顔もスタイルも最高だが、感度も最高。アソコも名器で、この味を知ってしまうと、他の女を抱く気にはなれない。というか、内面が男なのを犯すのがイイのだ。ここにはクスリで女に変身した元男と、そのことを承知したうえで「彼女たち」とセックスしたい男たちの集会所なのだ。
「な……それじゃあ、あの女たちは全員、本当は男? ってことは、マリナも……」
目の前で、大きな嬌声を上げながら交わる美女たち。そして脳裏に浮かぶ、淫らに身をくねらせ、よがっていたマリナの姿。
獣欲に満ちた視線を俺に向ける男たちは、俺に対しても、彼女たちと同じことを期待しているのだ。
「じょ、冗談じゃないぞ。帰る! おい、離してくれ!」
「おっと待てよ。まだ帰ってもらうわけにはいかないって」
振りほどこうとしたのだが、一層強い力で引き止められる。二人がかりで両腕を掴まれたうえ、正面に立った男の手で上着のボタンが外されていく。
「そうそう、ちゃんとオンナの悦びを知って、リピーターになってもらわないとね」
「くぅ〜っ! いいねえ。久し振りの新人が、ちゃんと嫌がってくれる子で」
ち、畜生。変態しかいないんじゃ、何を言っても無駄じゃないか。
「うは〜、流石、立派なおっぱい――って、おいおい久々に見たなこれ!」
すっかり剥き出しにされた乳房、その先端に貼られた絆創膏を指差して男たちが笑う。自分でも間抜けさはわかっているだけに、カァっと頬が熱くなる。
「そうだよな〜女もんの下着なんてまだ持ってないもんな〜。ってことはあれか、下もやっぱりトランクスか」
「あー、俺それは萎えるんだよなあ」
「バッカ、そこがイイんじゃねえか。……けど、こっちはそろそろバイバイだな」
下卑た笑みを浮かべながら、男が両方の絆創膏を一気に剥がす。
「ひぅっ!?」
「へへ、やっぱ敏感だねえ。じゃ、まずはしっかりこのおっぱいを可愛がってあげようか」
鼻息を荒くしながら、胸に手を伸ばしてくる。思わず身を竦めそうになったが、以外にも優しい力で触られた。
「んっ……ふぅっ? んっ、んんっ……くぅぅっ」
男の手で乳房を捏ねまわされるのに合わせて、妙な声が漏れてしまう。
「お〜、早速感じてるのかなあ? いいねいいねえ。もっと良くしてあげるよ」
「ば、馬鹿野郎、気持ち良くなんか……んぅっ、んっ、くふっ、んんぅっ!」
強く否定したくても、体が言うことを聞いてくれない。なんだこれ、胸を揉まれてるだけで、こんなに感じるのか、女の体って?
「んあっ、あっ、はぁっ……んんっ、んふぅぅ、んふぁっ」
だんだん体が熱くなってきて、胸の先端がムズムズする。まさか、乳首が勃起してきたんだろうか。
「んあっ?! ふあああっ!!」
こちらの変化を見て取ったのか、今まで触れていなかった乳首を男の指に軽く弾かれ、耐えられずに大きな声を上げてしまう。
「くふふ、もうビンビンだねえ。触って欲しかったんでしょ? ここ」
「そ、んなわけ……んふっ……や、やめろって……うっ、うぁっ、あっ、はっ、ああっ……だ、ダメっ」
乳首を弄ばれる度に、電流のような快感が体を走る。情けない声を抑えられず、脚に力が入らなくなっていく。
「なあ、もう下は洪水なんじゃねえの?」
「だろうな。よし、そろそろそっちに移ろうぜ」
ズボンのベルトに手を掛けられる。腕を押さえていた男たちも、上着を完全に脱がしにかかった。
「わっ! ば、馬鹿! やめろっ!」
「うはは、やっぱトランクス穿いてたな」
「ほら、とっとと脱がしちまえ」
抵抗しようにも、男三人がかりでは敵いようがない。そのうえ、今度はさっきとは別の男が、後ろから胸を掴んでいるのだ。下手に暴れると、快感を通り越して痛みに襲われてしまう。
「んあああっ! んはぁっ、ふぅっ」
股間の割れ目を撫でられただけで、今まで以上の声が出てしまった。にちゃっと、水気のある音も聞こえた気がする。嘘だろ……本当に濡れているのか。
「おーおー案の定ぐっしょり。淫乱の素質あるよキミ」
「っていうか、あのクスリ使ったやつは皆そうなっちゃうんだけどな」
皆……? そうか、感じやすくなるって言ってたっけ。なら、俺が変ってわけじゃ、ないんだよな。
「あっ、くんっ、あっ、はァっ、うああっ」
気を抜くと、ますますいやらしい声を止められなくなる。喘ぎ声が自分の頭の中にも響き渡って、だんだんおかしな気分になってくる。
「おい、もう指はいいんじゃねえの? 充分ほぐれてるだろ」
「さっさと済ませてくれよな。お前がどうしてもコイツの初めてがいいって言うから、待ってやってんだぜ」
「わかったわかった。じゃ、四つん這いにさせてくれよ」
は、四つん這い……? そんな姿勢にさせて、何を――。
女のアソコから引き出される快楽に蕩けそうになっていた脳が、いくらか理性を取り戻しかける。
股間の、穴の辺りにぴたりと熱いものが当てられ、さあっと血の気が引く。慌てて逃げようとするも、男たちの腕は振り解けない。
「や、やめ、ダメだ、やめろ。男になんて――!」
「大丈夫大丈夫。処女膜もないから……さ!」
ここまで来て懇願が聞き入れられるはずもなく、熱を持った肉の杭が、腹の下に一気に突き入れられた。
「ふわっ……んああああああっ!! んんっ! くぅ〜っ」
怖れていた痛みや、気持ち悪さはなく。
ただ、信じられないほどの快感が押し寄せてきた。
「うおっ……! さっすが、絡み付いてくるっ……!」
「んっ、うァっ! あっ、はァっ、ああっ! くぅっ、うああァっ!!」
ペニスが抜き差しされる度に、体の奥から快感が湧きあがってくる。
「はァっ、はァっ! んぁっ、あンっ! な、なんでェ……あっ、あああっ!」
同時に触られている胸からも、さらなる快楽信号が送り込まれてくる。全身がその波に溺れて、際限なく気持ち良くなってしまいそうだ。こんなの、男の時には経験したこともない。
「ああっ、やっ、だっ、なっ、なんかクるっ! クるよぉっ!」
「おお、もうイクのかっ? いいぞっ、しっかり、イカせて……やるっ!」
男が腰をぐっと強く掴むと、一層勢い良くペニスを突き立て始めた。パンパンという肉のぶつかり合う音と、ぬぢゅっぬぢゅっと粘液の絡む音が耳を犯す。
「あっ、ああっ! ふァっ、やっ、はっ、あっあっあっ、んっ……はああああ〜〜っ!!」
体中から集められ、凝縮された快感が、爆発した――そんな感じだった。
全身が快楽に打ち震え、頭が真っ白になっていく。
「ぐうっ、こ、こっちも、出るぞっ!」
そんな声とともに、腹の中に、何か温かいものが注ぎ込まれるのを感じた。
その後、何人に貫かれ、いいや、受け入れ、咥え込み、何度イったかわからない。
どうやって帰ったのかも知らないが、気が付いた時には下宿先の部屋で朝を迎えていた。
体は男に戻っていたが、全身から立ち昇る精液の臭いと、ポケットに突っ込まれた高額紙幣が、あれが夢でなかったことを教えていた。
(つづく)
2009年06月14日
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ハァハァしましたよ
後編はマリナがどう絡んでくるかも楽しみ(^^)
コメントありがとうございます。
楽しんでいただけてますかっ!
それは何よりです(^^)
マリナは、えーっと……ひ、秘密ということでっ。