2009年05月25日

寂しい夜は

「はぁ、アイツも結婚かあ。ま、アイツなら頑張って幸せになるだろ」
 今日は大学時代の友人の結婚式だった。俺が参加したのは2次会だけだったのだが、まあそれなりに楽しませてもらった。久し振りに大学の仲間とも会えたしな。
「さて、これからどうするかな」
 20代後半ともなると、焦りを感じてるやつらもちらほらいる。わからないとは言わないが、俺が今悩んでいるのはそんな真剣な問題ではない。
 ただ単に、今夜をどうやって過ごそうか、というだけの話だ。
 県内の都市とはいえ、2次会の会場は俺の自宅からかなり遠かった。ほぼ反対側の県境にある家からだと2時間以上かかる。それでも充分に行動圏内で、出てくるぶんには面倒ではないのだが……今からだと、ローカル線の終電には間に合いそうになかった。こっちで飲む時は、いつもそれがネックだ。
「ネカフェにでも泊まるか。明日も休み取ってあるんだし」
 東京などに比べると、地方都市のネットカフェにはかなり安いところもある。仮眠客を強く意識した作りの店もあるし、店選びに失敗しなければ、そう悪くもない宿泊先だ。

 以前使ったことのある店は特に安く、出来れば今回も利用したいと思ったのだが、地下鉄で二区間移動する必要がある。わざわざそこまで移動するべきか迷いながら歩いていると、駅の目と鼻の先の雑居ビルにネットカフェの看板があることに気が付いた。普段は使わない通りなので、こんなところに店があるとは今まで知らなかった。
 値段は悪くない。あと問題なのは内装だが、この近くにある某大手の店舗ほど悪くはなさそうな気がした。たとえ外れても一晩の我慢だ。
 ビル真ん中あたりの複数のフロアを使っているらしいので、エレベーターを使ってカウンターフロアに向かう。ナイトパックでフラットシートのスペースを選ぶと、折角なので未読のシリーズ漫画を数冊手にとり、外階段を使って自分のスペースのあるフロアに移動する。
 フロアの移動が必要なのは少々面倒だが、店内はなかなか綺麗な印象だった。照明も最低限に抑えられており、しっかり眠るつもりの者としてはありがたい。かつて泊まった都内のネットカフェは、夜中でも煌々と明かりがついていてうんざりしたものだが、ここはそんな馬鹿な店ではなかったようだ。
 見た限りでは内装もかなり新しく、汚れの目に付かないシートはそれなりの大きさがあった。靴を通路で脱ぐ形なので、パーティションの中の床全体にシートクッションが敷かれており、大人一人が余裕で横になれる。それに、各スペースと通路を仕切るドアは、たいていの店のように下のほうが開いているのだが、そこに布がつけられており、簡単には中が覗けないようになっていた。規制的にどうなのかは知らないが、泊まる身としては助かる。これなら落ち着いて寝られそうだ。

 翌日が平日であるためか、駅近くにもかかわらず利用客は数えるほどしかいないようだった。騒がしい客もおらず、店内は実に静かで居心地が良い。価格・内装・立地条件。すべてが宿代わりとして理想的であり、嫌な客もいないとは運にも恵まれている。まったく良い店を見つけたものだ。
 ネットカフェの当たり外れなど些細なことだろうが、俺はかなりの満足感を覚えていた。
 しかし……。
「やっぱちょっと、つまんないかな」
 結婚する友人を見送った後だからだろうか? 気にはしていないつもりだったが、幸せそうな男女を祝ったその日にネットカフェで一人寂しく夜を越すというのは、僅かながらもみじめさを覚えさせられるものらしい。
 いや、刺激されているのは性欲なのかもしれないが。
 なんにせよ、このまま眠るというのは面白くなくなってきた。
「俺だって、ちょっとぐらいは楽しませてもらおうかね」
 
 漫画本を閉じて机の上に置くと、仰向けに寝転がり、これから自分がやろうとしていることを思い浮かべる。
 想像だけでも興奮して、たちまち硬くなっていくペニスをズボンの上から擦る。このまま射精までもっていくこともできそうだが、あえてその欲求を堪える。股間が充分に張り詰めたなと思うまで擦りあげると、すぐさま俺はあることに意識を集中した。
 幽体離脱。
 生きたまま、肉体から幽体を離れさせる方法。ふとした切っ掛けで目覚めた能力だ。コツは掴んでいるので、ごく短時間で行うことができる。
 自分の身体から抜け出た俺は宙に浮くと、まずはフロア全体を飛び回って、他の客の様子を調べた。
 案の定、今夜の利用者は少ない。既に寝ている者もいる。軽く安心といったところだ。若い女性客がいれば話は早かったのだが、他のフロアにも一人も見当たらなかった。まあ、よっぽどの事情がない限り、こんなところで夜を明かす気にはなれないだろう。
 獲物を探すために、外に出る。
 幽体離脱だけではせいぜい覗きにしか使えないが、俺の能力はそれだけではない。他人に憑依することで、その人間の意識を奥深くに押し込め、本人に代わってその肉体を使うことができるのだ。

 この時間となると、外を歩いている人間は少ない。夜の早い街なのだ。そう簡単に好みの相手は見つかりそうにない。すぐ近くの風俗店には間違いなく女の子たちがいるが、店から抜け出したりすれば騒ぎになる可能性も高い。
 しばらく駅の周りを漂っていると、派手な女の子が歩いてくるのが目に入った。
 金髪にウェーブをかけたボリュームのある髪型、全身を黒く焼いた肌、胸元の開いた豹柄のシャツは身体にフィットしており、その上にファーのついたジャケットを羽織っている。下は際どい丈のタイトフィットなミニスカートに、ヒールの高いブーツ。
 いかにも遊んでいそうな印象だ。正直なところ、あまり好みの娘ではないのだが……間近で観察してみたところ、顔立ちはなかなか整っていることがわかった。
 ふむ、たまには、こういうタイプの娘になってみるのも面白いかもしれないな。
 後ろに回ると、彼女の身体に覆い被さるようにして幽体を重ねる。
「えっ!? 何? この寒……気……ひ……ぁ……ぅ……ふうっ! よし、今回も成功だな」
 身体を見下ろすと、大きく開いた胸元から見事な谷間が見える。
「まったく、こんな露骨に男を誘うような格好しやがって。こんな時間に出歩いてて、襲われても知らないぜ。……んっ、柔らかっ」
 ついつい、彼女自身の手で胸を揉んでしまう。襲われるどころか身体を乗っ取られてしまうなんて、思いもしなかっただろうな。
 そのまま体中をまさぐってやりたかったが、路上でそんなことをしていたら、本当に襲われてしまうかもしれない。まあ、俺はなんとでもなるんだが、さっさと場所を移ることにしよう。

 黒ギャルの身体を操り、自分が泊まっているネットカフェに入る。
「ナイトパック、フラットシートでお願い」
 わかりきっている料金表を見るふりをして、カウンターに寄りかかって前屈みになってやる。席を指定しながら顔を上げてやると、店員の視線が泳ぐのがわかった。
 へへっ、しっかり目に焼き付けたかな、こいつ。
 女の財布から勝手に料金を支払うと、まずはトイレに向かった。明るいところで、この女の外見をしっかり確認しておこうと思ったのだ。
「へえ、なかなか悪くないじゃん」
 外で見た時に感じたとおり、充分に可愛いと言える顔だった。わざわざ派手なメイクをして、肌を黒くしてしまっているのが勿体ない。体つきもメリハリがきいていて、わかりやすい色気を発している。
「こんな頭の悪そうな格好しなくたっていいだろうに。……ま、これはこれで興奮するところではあるかな」
 こういう派手に遊んでそうな女とはまったく縁がなかったし、今までの俺の好みともかけ離れている。しかし、そんな、「頭の悪い黒ギャル」に自分自身がなってみると、別人になっているのだという実感が強く湧いてくるのだ。大胆に遊びたくなってくる。
 憑依相手の記憶を読むなんてことはできないため、この女の頭が本当に悪いのかはわからないが、そこはもう、気分の問題だ。
 鏡の前で色々なポーズをとって、この女の容姿を堪能した後、持っていたバッグを漁って、身分証明書の類を捜してみる。
「あったあった、この娘は……ふうん、谷野麻妃か」
 免許は見つからなかったが、財布の中のカードに名前が書かれているのをいくつか発見し、ニヤリと笑う。乗っ取った相手の名前がわかっている方が興奮度合いも増すのだ。
「じゃ、麻妃ちゃん、一晩愉しませてもらうよ」

 ヒールの音を鳴らしながら外階段を上り、自分の身体を寝かせてあるフロアへと移動する。多少の物音は聞こえるが、室内は相変わらず暗くて静かだ。まずは麻妃の身体で指定したスペースに向かい、伝票を置いておく。ジャケットもシートの上に脱ぎ捨て、歩き難いブーツも脱いで、備え付けのスリッパに代える。少し考えた後、バッグだけは持って、俺の身体の元へと向かった。
 シートに横たわった俺の身体は、一見、普通に寝息を立てているだけだ。
「よし、寝てる寝てる。けど、こっちは起きてるねえ♪」
 薄闇にも目が慣れたので、電気をつけなくてもだいたいは見える。
 俺の股間の部分は、ズボンの上からでも大きく膨らんでいるのがはっきりとわかった。どういう理屈かは知らないが、勃起した状態で幽体離脱すると、次に身体に戻るまで勃ったままなのだ。そのままでは何の旨味もない現象だが……憑依と組み合わせれば、遊びようはある。
 麻妃の身体で腰を下ろすと、俺の股間を撫でさする。
 自分の手で触る時とは違い、なんだか妙な気分になってくる。この中に収められているモノが、これから自分を気持ち良くしてくれると知っているからだろうか。
 ズボンのファスナーを下ろし、下着の中からペニスを引っ張り出すと、雄の臭いがむわっと広がる。麻妃の身体が一層熱を帯びるのがわかった。俺の期待が伝わっているのか、麻妃の股間も既に濡れ始めているようだ。今のうちにショーツを脱いでしまう。
「ふふ、今日も、たっぷり、気持ち良くしてね。そのチ○ポで」
 長い爪のついた細い指で、自分のモノを扱く。これから男を襲う痴女になったかのような気分だ。傍から見たらその通りなのだろうが。
 口の中に湧いた唾液をペニスに垂らし、まんべんなく塗りつける。ただそれだけの行為。麻妃の肉体には一切刺激を加えていないのだが、太ももを伝う感覚で、もうそちらの準備が整っていることがわかった。
「まったく、エロい身体だなあ。ま、俺のせいかもしれないんだが」
 スカートを少したくし上げると、自分の股間の上に跨り、ゆっくり腰を下ろしていく。
「早速挿れさせてもらうよ……んんっ……くっ……ふぅんっ」
 膣口にめり込んだ亀頭が、肉襞をかきわけながら体内に入ってくる。熱くて硬いものが腹の下に侵入する異物感には、もう慣れたものだ。軽い痛みも、すぐに快感へと転じる。
「んっ……ふっ……んんっ……くふっ」
 腰を上下させると、熱い杭が膣内を抉り、カラダの中から快楽が掘り起こされる。
「ふぅっ……! やば、この身体……感度……いいな……ぅんっ」
 漏れそうになる声を必死に抑える。両隣や向かいのスペースが空席なのは確認済みだが、静かな店内だ。他の客に気づかれて、店員に連絡でもされたら面倒だ。
 しかし、もしかしたら気づかれているかもしれないという想像は、カラダをより昂ぶらせた。
「んっ……むぅっ……んっ……んんんっ」
 腰を回したり、角度を変えたりしながら、膣全体で俺のモノを味わう。声を上げられないのがもどかしいが、カラダの奥にはどんどん熱が溜まっていく。
 今の自分の――麻妃の姿を見ることが出来ないのは残念だ。さぞかしいやらしい表情をしているだろうに。電気をつけて手鏡を取り出したい衝動にかられるが、我慢して、代わりに一層激しく腰を動かす。
 結合部から響く水音だけでも、周りに気づかれてしまっているかもしれない。そう思っても止められなかった。俺の心も麻妃の身体も、快楽を貪ることを何よりも優先したがっていた。そして――
「ぁっ……んっ、んんっ、んぅっ……んん〜〜っ!!」
 咄嗟にハンカチを口に当てて声を押し殺しながら、俺は麻妃の身体を痙攣させて絶頂に達した。

 しばらくの間は、自分の身体に身を預けるようにして、イった余韻に浸っていたが、つながったままの股間から伝わる熱に、再び淫欲の火が灯るのを感じた。
 抜け殻となった俺の身体は、どんなに刺激を与えても、射精に至ることはない。
 萎えることのない硬い肉棒は、都合の良い肉バイブだった。憑依した女の体力が続く限りは、何度でも愉しむことができる。
「……もっと、もっと麻妃をイかせてよね、お兄さん♪」
 俺は自分の身体にもたれかかったまま、再び麻妃の腰を激しく振り始めるのだった。

 疲労と眠気が限界に達した頃、俺は自分の服を整えたうえで、麻妃の取ったスペースに戻り、麻妃の身体を眠りにつかせた。
 その後一旦自分の身体に戻るとトイレに行き、先ほどのことを思い出しながら溜まったものの処理をした。これをそのままにして眠るのはちょっと不安なのだ。
 自分のスペースに戻ってから再び麻妃に憑依し、その身体で改めて眠りにつく。特に何かが違うというわけでもないが、折角だから、出来るだけ長時間女の身体に居続けたかったのだ。
 そして早朝、まだ暗いうちに店を出ると、麻妃を解放した。
 俺が離れてすぐのうちは、身体の違和感に顔をしかめたり、時計を見て一人で騒いだりしていたが、そのうち駅の方へ歩いていった。普段の生活を想像する限り、大きな問題にはならないんじゃないかな、などと勝手なことを考えながら、俺も自分の身体に戻って店を出る。
 
 この能力のおかげで、昨夜も楽しく過ごすことができた。
 やっぱりまだ、特定の交際相手が欲しいとは思わないな。いつでも望んだ相手を好きに出来るのだから、欲求不満になることもない。むしろ、大切な人がいる方が不安になるかもしれない。
 けど、自分の身体が射精しないのは厄介なとこもあるかな。女の身体で何回もイっても、自分の身体に戻るとギンギンのままだし。
 どうしても出しておきたい時は、短時間で身体を行ったり来たりすれば良いのだろうか。
 今度はそれを試してみるのもいいかもしれないな……。


★あとがき★
 このお話は、どうせ妄想に決まっています。実際の人物・施設などとは、一切関係あるはずがありません。

 ごきげんよう、nekomeです。お読みいただきありがとうございます。
 創作もする人間だということをそろそろ忘れられないかと思って、ちょっと書いてみました(爆)
 黒ギャルは元々好みではなかったんですけどね、最近は「こういうのもアリかなあ」と思うこともありまして。清楚な娘ばかりで妄想してると、刺激の種類が足りなくなるのです。

 あ、たべ・こーじさんの描かれる攻撃的なギャルはかなり興奮できます。最近買ったのですよ『TABE RuNBA』。表紙を見てグッと来た方はどうぞ。漫画はわずかで、簡単なストーリー付きのイラストがメインですので、そこはご承知のうえで。あと、キモい中年男との絡みも多いので、苦手な方は注意。キモ男が(致命的なレベルで)痛めつけられてる絵も多いのですが、これは逆に妄想を加速させるかもしれません(笑) あと、フルカラーなのでかなりの見応えです。

 さて、次は変身でいきましょうかねー。
posted by nekome at 10:57| Comment(4) | TrackBack(0) | 創作・憑依
この記事へのコメント
うひょー!いいですねぇいいですねぇ♪
自分も遊んでる系のギャルはあまり好みではないのですが、刺激の種類!
わかります!わかりますとも!ww
たまには違うのも食べてみたくなりますよね♪
Posted by k at 2009年05月25日 23:51
いやあ、いいねえ。
自分が頭の悪そうな、というか頭の悪いギャルになるのは萌えますねえ。
Posted by ディグ at 2009年05月27日 05:45
面白かったです!
また続編よろしくお願いします(^^ゞ
Posted by ecvt at 2009年05月27日 08:09
>kさん
ありがとうございますっ。
おお、理解が得られて良かったです(^^)
やっぱ、こう、色んなタイプを試した方が長く楽しめますよねっ。

>ディグさん
ありがとうございますっ。
自分があの「頭の悪い女」になって快楽を貪ってるんだ、と思うと興奮しますね! 普段よりはっちゃけてしまって、適当な男を引っ掛けてノリノリでヤってしまいそうです。

>ecvtさん
ありがとうございますっ。
この主人公で続編を書くかはわかりませんが、他のシリーズの続編もそろそろ書かないといけませんねえ(^^;
Posted by nekome at 2009年05月27日 18:44
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