その日から、ヤツは頻繁に沙夜香に乗り移っては、その肉体を弄び、俺を翻弄して楽しんだ。
現れるのは、たいがい夕方の、下校中。稀に学校にいる間に憑依して、待ち合わせ場所にやって来ることもある。そんな日は、歩いている間中、ヤツの話に付き合わされる。誰それの胸がデカイだのあの子はまた男とヤッたらしいだのという話を沙夜香の口から聞かされるのは、かなり反応に困る。そんな俺の様子をヤツが面白がっているのも癪に障る。
あまりに沙夜香の周囲の娘に詳しいもので、まさか俺の見ていないところでも沙夜香として過ごしているのではないかと不安になり、問い詰めてみたが「誰がそんな面倒なことをするか。今更学生なんて冗談じゃない」と返された。ただ気の向いた時に近くを漂って、女子高生を覗いているだけらしい。沙夜香の人生を丸ごと狙っているわけではないらしいとわかり、少しだけほっとする。
とはいえ、ヤツが沙夜香の身体と俺をおもちゃにしていることには変わりがなく、そこには何の救いも訪れてはいない。
俺の家に帰れば、いつものように淫靡な時間が幕を開ける。
「は、離してくれよ……」
「え〜、ホントに離したいのかなあ〜? もっと激しく揉んだって良いんだよぉ」
「やめろって、沙夜香の手で、そ、そんなとこ」
「ふふっ、気持ちイイだろう? 女の子の手でしごかれるのは。……ほぅらヌルヌルしてきた」
「はぁ、はぁ、ほら、もっと強く吸ってみろよ。あと、舌で転がしたり……ううっ、いいぞ」
「く……むぐ……れろ……ん……ちゅぽっ」
「よぅし。じゃ、次はこっちも舐めてもらおうか」
「なっ……! それは、いくらなんでも……」
「へぇ? そういうこと言っていいのかなあ?」
「……っ。わかったよ。沙夜香……ごめん」
「くくくっ、さあ、たっぷりあたしに奉仕してよね、リョウ君。……んっ……くぅんっ……あ、そこ……はァっ」
「――くん? 諒一くん?」
「……えっ? あ、ああ。どうした?」
「最近、どうかしたの? 何か悩んでるみたいに見えるんだけど……」
「い、いや、たいしたことじゃないんだ。言うほどのことじゃ」
「そうなの? わたしに何か出来ることがあったら、いつでも相談してね」
「ああ、その時はすぐに言うよ。今は大丈夫だから」
あれだけの行為を繰り広げておきながら、本物の沙夜香との関係には、一切の変化がなかった。接触は、相変わらず手を繋ぐことまでで、キスすらしていない。
――していないと思っているのだ、沙夜香は。
既にその口が、俺の口内を、ペニスを蹂躙し、時には搾り出した精液を受けたことすらあるなんて、夢にも思わないだろう。
ヤツに憑依されていない時の沙夜香は、以前と変わらず、優しげに微笑んでいる。俺のことを心配もしてくれる。それなのに、俺は――
ある休日のこと、沙夜香からメールが届いた。今から家に遊びに来られないか、という内容だ。
これまで、沙夜香からそういう誘いを受けたことは一度もない。昼間というのは例がないが、ヤツの仕業だろうか。彼女を疑っているみたいで嫌な気分だが、考えずにはいられない。
だが待てよ、考えたところで何になるっていうんだ。沙夜香本人なら当然会うべきだし、ヤツだとしたら……言うまでもないじゃないか。くそ、最初から俺に選択肢なんてないんだ。
「あ、いらっしゃい諒一くん! ね、あがってあがってっ」
「ああ、えと、お邪魔するよ」
白いワンピース姿の沙夜香が出迎えてくれる。邪気のない笑顔……沙夜香本人の方だろうか。ん? でも、どこか顔が赤いような気もするけど。
「驚いたよ。急に、家に来てほしいなんて言うからさ」
「両親がね、昼から出かけることになったの。せっかくだし、一緒にいたいなあ、って」
「そ、そっか。嬉しいよ。けど……もしかして、熱とかあるんじゃない? 顔も赤いし」
「ううん、そんなことないって。ふふっ、わたしは元気だよ」
こうは言っているけれど、俺を先導して階段を登る足取りも、どこか危なっかしい。話している限りでは、元気というか、テンションが高すぎる気さえするのだけれど。
「ここがわたしの部屋。ほら、遠慮せずに入って?」
「う、うん、それじゃ」
「ふふっ、緊張してる? 普段あれだけ……んっ……ふぅっ……ふああああっ!」
「沙夜香っ?! お、おいっ」
俺がドアを閉めたところで、沙夜香が急に声を上げて、床に座り込んでしまう。慌てて駆け寄るが、今、何か気になることを言われなかっただろうか。俺の腕の中で、赤い顔をしてはぁはぁと息を整えている沙夜香に、思い切って問い掛けてみる。
「お前……もしかして」
「……はぁ……ふぅ……へへ、ようやく気付いたか?」
「怪しいとは思ってたさ。くそ、なんで昼間にまで出てきやがるんだ」
「別に夕方から夜だけなんてルールを作った憶えはないぜ。ま、お前が迷ってるのも見てみたかったしなあ、くくっ。ホントはもうちょっと楽しんでようかと思ったんだが……んっ……我慢できなくなってきちまってな」
我慢だと? そうだ、確かに最初から様子がおかしかった。こいつ、一体何をやっているんだ。
俺がいぶかしんでいると、沙夜香はすっと立ち上がり、こちらへ向き直った。ニヤニヤと顔を歪めながら、ワンピースの裾をゆっくり持ち上げていく。沙夜香に申し訳ないとは思いつつも、俺には目を逸らす自由はない。いつものように、苦悩と興奮を抱きながら見つめる。
なんだ……? 下着が盛り上がって……そこから、細いベルトみたいなものが、腰と太腿に伸びている。かすかに、何かが振動するような音も聞こえる。こいつ、道具を仕込んでいるのかっ。
「くぅっ……装着型のローターってのも……結構イイもんだなあ。んふっ……ただ座ってたり、歩いてるだけでも気持ちイイし……空いてる手で、別のトコを弄ったりも出来るしなっ」
「お前っ、そんなものまで使って沙夜香をおもちゃにして……!」
「開発してやってんだよ。そのうち……んっ……俺がいなくてもお前を求めるようになるんじゃねえの? ふふっ、んっ、ああっ、はァっ!」
「ちょっ、お前、おいっ」
ローターの刺激に感じているのか、目を細めて、ふらふらと身体を揺らす沙夜香。その危なっかしい様子を見ていられなくて、思わず立ち上がると、向こうからしがみついてきた。思い切り体重をかけられてふらつき、結局2人して座り込んでしまう。
「へへっ……これ……なかなか凄くってさ」
「馬鹿野郎。せめて、沙夜香の身体を傷つけないようにはしてくれよな」
「傷ねえ……傷なら……くくっ。悪ィな、手っ取り早く楽しめるようになりたかったからさ。道具使って膜破っちまったわ」
「……なんだって。お前、何、やったって」
「ああ心配すんなよ。男のモノは挿れてねえって。それに膜の一枚や二枚、放っといても破れたりするんだからさ、いちいち気にすんじゃねえよ」
「け、けど……」
「それでさあ、んっ、このカラダ……もう我慢できなくなってんだよな、んはぁっ」
「おい待てっ、待ってくれっ、くそっ」
制止の声も聞かず、沙夜香は俺の股間をまさぐって、ペニスを引っ張り出してしまう。
「ふふっ、ちゃんと反応してんじゃねえか。けど……もうひと押ししとくかな。……ちゅっ……ちゅるっ……んむ……んっ……んっ…ちゅばっ、んじゅるっ」
「くっ、ううっ、さ、沙夜香あ……くう……」
俺の醜いモノをぱっくりと咥え込む、可愛らしい唇。絡みつき、這い回る舌の感触。こんなことをされているというだけでも、どうしようもなく興奮してしまうというのに、男のツボを突いた的確な責めまで加わっては、股間に集まる血流を防ぐ手などはない。
「そ、そろそろ……」
「……ちゅぱっ。おおっと、まだダメだぜ。今日は……んっ……こっちになっ」
四つん這いの姿勢のまま、沙夜香は自分の服の中に手を突っ込んで、ショーツを脱ぎ、ローターを外してしまう。そのまま、じりじりと這い寄ってきた。跨ぐようにして、俺の腰の上あたりに、自分の腰を持ってくる。
「まさか……やめろ、やめてくれっ、そこまではっ」
「くくくくっ。お前の彼女のカラダが求めてんだよ……応えてやれよ。」
「馬鹿言うなよっ! 沙夜香の知らないうちにそんなこと……出来るわけないだろっ!」
「沙夜香ちゃんの知らないうちに、今までナニしてきたっけなあ? さあ早く……お前の女を……犯しちまいなっ」
片手でスカートを捲り上げ、片手を俺のペニスに添えて、沙夜香はゆっくりと腰を落としてゆく。近づいていく、お互いの陰部。
こんなことを受け入れちゃいけない。なのに、俺には彼女を振り払うことはできない。ヤツの意思を拒絶すれば、どんな報復が待っているかわからないのだから。
……本当にそうか?
俺は、本当に沙夜香の肉体を拒絶したいと思っているのか? 本当は期待しているんじゃないか? ヤツを言い訳にして、これから訪れる快楽を享受しようとしているんじゃないのか? 今までだって、なにもしなかった。違う、出来なかったんだ。けど、今回ばかりは。ああ、ダメだ、俺には、もう。
――ちゅぷり。
「んっ……! くうっ……あっ……はあっ……ああ、入って……んううううっ」
「うぐ……ああ……」
にゅるりと、ペニスが温かいものに包まれ、締め付けられていく。経験したことのない刺激。沙夜香は恍惚の表情で、自分の下腹部を撫でている。
「……しっかり入っちまったなぁ。もう後戻りは出来ねえなぁ? どうだい沙夜香ちゃんのナカは、くっくっく。さあ、楽しもうぜ――」
――そして、今。
「こっちも準備できたぜ。じゃあ、今日は後ろから突っ込んでくれよ」
俺のベッドの上で、全裸の沙夜香が尻を突き出して誘っている。爛れた夕方は、まだ続いているんだ。
「……ああ、わかったよ」
「くくっ、随分素直に従うようになったもんだなあ?」
「仕方ないだろう。お前に逆らったら……うくっ……そら、いくぞっ」
「うっ、ふぅ、んっ、はぁんっ、あっ、イイっ、はっ、ああんっ」
何度も悩んだ。こんな関係は続けるべきじゃないと。ヤツを拒絶することは出来なくても、せめて沙夜香に真実を教えるべきだと。信じてもらえるかどうかは別問題だ。ただ、俺に何度も身体を汚されながらも、清い交際を続けていると思い込まされているのはあんまりだと思ったのだ。
沙夜香に伝えることまでは、ヤツに止められてはいない。それどころか、「やれるんならやってみろよ」と嘲るように言われただけだ。
結局――俺は今日に至るまで、何の行動も取れてはいない。
信じてもらえないことが怖いんじゃない。だって、真実を伝えたところで、ヤツがいなくなるわけじゃないんだ。逃げられない現実は、沙夜香を苦しめるだけじゃないか。
それに――それに、俺は、認めなければならないだろう。この、淫らな沙夜香と過ごす時間に、溺れかけているということを。
「あっ、はァっ、んっ、うぁんっ、はっ、あはァっ、あっ、ああっ」
俺の手で、俺の舌で、俺のモノで、大いに乱れ、喘ぐ彼女。
我慢する暇も与えず、腰をくねらせ、迫ってくる彼女。
惜しみなく、俺に快感を与えてくれる、この淫らで美しい、黄昏時の彼女から……離れることが、できそうにないんだ。
「んっ、ふぁんっ、そうだっ、さっきの話っ、だけどなっ」
「えっ? なんだって?」
「さっきのっ、んんっ、俺に逆らったらってやつだよっ。あれ、もういいわ、んぁっ」
「……もう、いいって……どういう……」
「ん……なんだ腰止めるなよ……。言葉どおりの意味だよ。俺の命令に従わなくても、コイツを酷い目に遭わせたりはしねえ。お前がどうしても嫌だって言うんなら、永遠に離れてやってもいい。お前とコイツは身体の相性が良いんで、捨て難いんだがな。ま、他に都合の良い身体がないわけじゃない」
「な、なんだよお前……いきなり……」
「言っただろ、言葉通りだって。…………さあ、どうしたい?」
振り返りながら笑った沙夜香の顔は――今までで一番、邪悪に歪んでいる気がした。
★あとがき★
ごきげんよう、nekomeです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございましたーっ!
いやあ、まさかこんなに長くなるとは(汗)
このお話には、実はヒントになったものがありまして。
そちらの小説では、彼女が二重人格なんですよね。多分、それを読んだ時から、こういうシチュエーションを想像していたんじゃないかと思います。
え、どこで読んだのかって?
そ、それを言うのはちょっと……察してくださいませ(^^;
さて、次は変身モノに挑戦してみようかと思います。どれだけ雰囲気を変えられるかなあ、っと。
2008年05月04日
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お待たせいたしました(^^;
ふっふっふ、彼はただ憑依してHすることだけでなく、相手の男が苦悩するというスパイスを欲していますからね。相手が状況を受け入れてしまっては、楽しみも半減というわけです。そこで……
さあて、諒一くんはどんな反応をしてくれますかね、っと。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。次回作も近いうちに書き上げたいものです。
すごい、前半の彼女の痴態も最高だったけど、
こっちはもっととんでもない!
ああああ! この光景を映像でっ!
それが無理なら画像ででもいいから見てみたいっ!
…その元になった小説のタイトル…できれば知りたいですが。うーん。
自分だったらこの誘いには迷わず乗っちゃうんだろうなぁww
おおっ、そこまで興奮していただけるとは何よりです(^^
憑依系の映像作品は少ないですから、なおさら観てみたいですねっ。
>元になった小説
いやあ……これはですね、プロの作品ではないのですよ。
高校時代の後は……げふんげふん。
み、見てないよなっ? このブログ見てないよなっ?
まあ、この後編まで目を通しているほどだったら、かえって問題ないでしょうけど(^^;
>なむよさん
お褒めいただき、ありがとうございます(^^
彼女本人の知らないところで、彼女の肉体に迫られる。この興奮と葛藤を少しでも伝えられたらな……と思って書きました。
この誘いは断りきれませんよね〜。もし、最後にきっぱりと拒絶の言葉を口に出来たなら……
その時は、この幽霊に「堕としがいがある」と思われて、かえって攻勢が激化するかもしれません(爆)
うひょー涎モノですなっ♪最高です><
駄目だいけないとワカっていながらもそっちの方向へと向かっていってしまうでしょう・・・
だってそっちのほうが・・・♪
黄昏時の彼女、全部読ませて頂きました。
とてもいいです。幽霊に彼女が憑依されちゃって慌てふためく彼氏が面白いです。
でも誘惑には勝てないんですね……というか、自分がやらなきゃ他の人のところに行く、と言われたらやるしかないですよねー。
描写も的確で想像力がかきたてられます。
『黄昏時の彼女』以外の作品も読んで感想書きますね。
これからの作品も期待しています。
では、お邪魔しました。
楽しんでいただけたようで、何よりですっ!(^^
そうですよねえ、いけないと思っていても、誘惑には抗えないですよねえ。
>光ノ影さん
いらっしゃいませっ。
お読みいただき、ありがとうございます!
大切な人が身体を乗っ取られてしまったら、もう大変ですよね。これ以上の人質はありませんもの。
それに、最初は苦悩していても、性的に迫られてはだんだんと……ねえ?(^^;
まだまだ粗いSSたちですが、お時間が許しましたら、お付き合いいただければと思います。
彼女の体を盾にされると逆らえませんものね。
頭の中では駄目だと分かっていても、従うしかない。
そして、その快感に理性が崩れかけて……。
エッチシーンもハァハァしましたよ。
また憑依小説、読ませていただきたいものです。
楽しんでいただけたようで何よりですっ!
憑依は究極の人質確保手段ですよね(^^
逆らうわけにはいかないから従っているのか、自ら望んで従っているのか、段々自信がなくなってくるかもしれませんね〜。
憑依ネタそのものはどんどん湧いてきますんで、また時間ができたら書いていきたいですねっ。