2014年09月21日

憑依丸‐病院編‐

「あーくそぅ、退屈だよなあ」
 夏休みに入って間もないうちに交通事故で入院。当然宿題もごっそり連れてこなきゃならなかったから、暇なわけじゃない。
 とは言ったって、遊びにも行けないのに宿題だけやってて楽しいわけがない。痛みに悩まされることも少なくなってきた今となっては尚更だ。
「やっぱ、コイツを使ってみるかな……」
 ベッドの横にあるテレビ台の引き出しから小瓶を取り出す。瓶の中には黒い丸薬が詰まっていて、黙っていれば胃腸薬か何かだと思うだろう。だが、これがそんなつまらないものじゃないことを俺は知っている。
 あの店で初めて手に取った瞬間に「知った」んだ。

 ビルとビルの間に埋もれた存在感のない建物。前日までその場所にあったかどうかさえあやふやな、薄暗くて中の様子すらよく見えないような怪しい店に、なんで足を踏み入れる気になったのか自分でも不思議だった。
 けれど吸い寄せられるように手を伸ばした、この丸薬入りの小瓶に触った瞬間、そんな疑問は吹き飛んだ。
 頭の中に流れ込んで来た、この薬の効果。自分の肉体を離れ、他人の肉体に入り込んで支配するという、非現実的なチカラを与えてくれるという。他人から説明されたら鼻で笑うか思い切り警戒するかだけど、もう脳内にその知識が「ある」んだ。信じるか信じないかじゃない。俺はこの薬が本物だと「知っている」。
 財布の中身はすっからかんになってしまったけど、迷うことなく買って店を出た。こいつがあればとんでもないことができる。期待ではち切れそうで、今にも踊り出したいぐらいだった。

 ……まあそんな具合に浮かれすぎてて、うっかり車に撥ねられたんだから馬鹿というしかない。
 おかげで入院なんてことになってしまって、この薬で遊ぼうなんて気持ちの余裕は暫く生まれなかった。
 でも入院生活にも慣れてきたし、また思わぬトラブルに見舞われる前に楽しんでおかないと。それに、ターゲットはもう決まっているんだ。

続きを読む
posted by nekome at 21:06| Comment(8) | TrackBack(0) | 創作・憑依
banner4.jpg