2012年02月24日

西尾市議会と中日新聞の消防団バッシングが招く、地域防災の崩壊

 このブログでは普段と毛色の違う、しかも長大な記事となりますが、重要な件につきご理解いただきたいと思います。

 2月22日、中日新聞朝刊に目を疑うような悪質な記事が掲載され、全国の消防団員から戸惑いと怒りの声が上がっております。

「西尾の消防団、公費でコンパニオン代」
(↑新聞紙上では団員を擁護する意見も併記されていましたが、公式サイトの記事は批判的な論調の文章しか掲載されておらず、そちらが中日新聞の公式見解であると判断いたします)

 さらに夕方には、以下の記事がアップされました。
「西尾の消防団、震災翌日も公費で宴会」

 はっきり言いましょう。
 何が問題なのかまったく理解できません。
 消防団の実態についてまともな取材を行っていないことは明白であり、実に劣悪な記事であると言えます。
 公務員叩きもここまで来たか、世も末だなと思わずにはいられません。
 おそらく、運良く消防団に一切の関わりを持たずに生きてこられた人(特に都会の住民)は記事に同調して「けしからん!」と考えてしまうでしょうから、詳しい解説を行います。

・消防団員の身分
 まずは基礎知識から。消防団員は「特別職の地方公務員」です。
 しかし、「公務員=相応の給料をもらっている人間あるいは特権階級」ではありません。
 「消防団員は特別職の地方公務員である」というのは、何か特別な権利を有しているという意味ではなく、むしろ一般民間人よりも多くの制約と義務を課されているという意味です。
 しかも消防団というのはそれが本職なのではなく、他に仕事を持っている人間が空いた時間で、プライベートを削って参加する仕事なのです。

・消防団員の処遇

 記事中では「団員報酬(年間1人5万5千〜14万3千円)」と書かれていますが、これは実に怪しい数字です。
 というのも、金額に幅がありすぎるからです。
 例えば千葉県四街道市の消防団員報酬(年額)は、団員が3万2千円、班長が3万8千円。
 14万円以上ももらえるのは、団長だけです。

 これで「年間14万円も貰っている団員がいる」というのは、平社員と管理職の給料を並べて語るようなもので、実に悪意のある、または無知を曝け出した記事であると言えるでしょう。
 わたしの想定よりも記者が愚かだった場合、年間活動報酬と退団金を混同している可能性もありますね。
 また、横浜市では団員2万円、班長2万1千円、団長ですら5万円。雀の涙とはこのことです。

上ではかなり好意的な推測を述べたのですが、この「年間1人5万5千〜14万3千円」という記述には、その元となっている可能性の高い文書が存在します。
 西尾市議員・鈴木規子がばら撒いているビラに、まったく同じ数字が書かれているのです。
 消防団に対する悪意に満ちた品性下劣な文章であり、最早怪文書と呼べるレベルです。
 中日新聞の記者は、この文書だけを見て他の取材をせずに記事を書いたのではないか?と疑いたくもなります。

・消防団員の労働量の実態

 消防団の主な活動のひとつに、「操法大会に向けての練習」があります。
 操法大会とは、ポンプに布ホースと筒先を繋ぎ、実際に送水を行って的を倒すまでの速さと正確さを競う大会です。ここで身に着ける動作・操作は実際の消火活動でも必要とされるものが多く、消火活動訓練的な意味合いを持っています。
 2010年11月23日にNHK総合で放送された「火を消すだけじゃない 消防団の底力」という番組が良い出来だったんですが……ネット上で公開されてませんかね?
 まあ、こちらのサイトで「操法」の詳細を確認してもらうと良いでしょう。
「e‐カレッジ 防災・危機管理」
 この練習量ですが、早朝または夜間1〜2時間の練習が、緩いところで年間30日程度。厳しいところでは100日をゆうに超えます。

 さらに、毎月1〜2回、休日を使った消火設備等の点検業務。
 毎月19日の防火PR(半鐘を鳴らしながら消防車が近所を回っていますよね。あれです)。
 秋・春の火災予防週間(↑を一週間やるってことです)。
 年末3日間の夜警(19あるいは20時〜0時まで拘束。朝まで拘束の団もあるかも?)。
 火災出動(夜中でも叩き起こされ、平日であれば仕事を休まされる場合も。また、プロの消防隊にも活動限界があり消火後すぐさま撤収してしまうので、残火監視は消防団の仕事となります。夜間に火災が発生した場合、翌朝まで寝ずの番をさせられることもあります)。
 台風・地震などの災害に対応した出動。
 地域行事への参加。祭の警備。出初式の階梯操法(当然練習もある)。
 忙しい月ですと、土日の半分以上が潰れることもあります。
 本職と消防団活動の板挟みとなり、精神を病んでしまう人もいます。

 さあ、活動報酬と労働量の実態ををざっとお教えしました。ここで問います。

 あなたは、この条件で働きたいと思いますか?

 これでも「無償ではないのだからボランティアではない。文句を言わずに働け」と言えますか?

 しかも、消防団員は頻繁に命の危険に晒されます
 東日本大震災で多くの消防団員が殉職されたことは記憶に新しいと思います。雲仙普賢岳の火砕流でも、危険な地域に無理矢理侵入したマスコミを連れ戻そうとした団員が巻き添えになって殉職されました。
 しかし「あれらは特別な例だ」と思っている人はいませんか?
 消防団員の殉職は、激甚災害指定クラスの災害以外でも容易に起こり得ます。
 例えば台風・豪雨による増水。伝聞ですが、実話です。
 堤防上で水位の監視を命じられ、暴風雨の中、川岸で監視。当時は情報が錯綜していてわからなかったが、解散後、実はある地点で冠水寸前になっていたことが判明。
 もし、もう少し雨が強かったら……と、団員は血の気が引いたそうです。
 また、うちの近所でも住宅火災が発生したことがあるのですが、あたり一面に白い煙が立ち込め、視界はほとんどゼロ。煙のせいで喉が痛く、まともに呼吸もできない。
 そんな環境で、消防隊員・消防団員の怒号が飛び交っていました。

 さて、もう一度質問です。

 消防団員の報酬は、その負担に相応しい額ですか?
 命に見合った金額ですか?


 勿論、公務中の負傷によって障害を負った場合は見舞金が支払われ、殉職した場合は遺族に弔慰金が支払われます。そのための共済制度があります
 (※東日本大震災によってあまりにも多数の殉職者が出たため財源不足となり、弔慰金の額は引き下げられました。)
 しかし、当人にとっては死んだらおしまいですよね。
 報酬を受け取れるのは、生きている間だけなんです。
 地域住民は、消防団員が生きている間に慰労するべきなんです。

・西尾市消防団員は非難されるべきか?

 ここまで理解したうえで、中日新聞の記事をもう一度読んでみましょう。
 ……西尾市消防団員の金の使い方は、非難されるべきものですか?
 彼らには、日々の活動を労われる権利があるのではないですか?

 それに、厳密に「公金」から遊興費が出たとは断定し難い部分があります。
 記事中にはこう書かれています。
「100人分の団員報酬(年間1人5万5千〜14万3千円)と、出動1回ごとに1人2800円支払われる手当の全てを慣例で団がプールしていた」
 ……これって「公費」でしょうか?
 一度団員の懐に入ったお金ですよね。それって私有財産じゃありませんか?
 自主的に集めて、共同で管理していた。そのお金は、当然団員が自由に使って良いんじゃありませんか?

 何故共同管理していたのか理解できない人もいるかもしれませんが、推測は容易です。いやまあ、現役団員からの証言ももらっているのですが。
 簡単な話、幽霊団員対策です。
 活動報酬は団員個人の口座に直接振り込まれるため、出席率に関係なく等額受け取ることができます。
 しかしこれでは、名前だけ登録して活動に参加しない団員、忙しくて滅多に参加できない団員まで金を受け取ることができ、不公平が生じます。
 そこで、活動報酬が振り込まれ次第回収・共同管理することで、消防団活動に参加している者のみが正当な恩恵に与れる環境を構築するのです。
 激務の対価で飲み食い……いったい何が悪いんでしょう。

 こう言う方もいるかもしれません。
「消防水利管理費名目になっているのだから、助成金を遊興費に充てたのだろう」と。
 ならば返しましょう。だからなんですか?と。
 何故助成金を遊興費に充てるような事態が発生するのか?

 答えは簡単、金が足りないからです。

 日々の活動に伴う飲食代・備品代などで、団員活動報酬はあっという間になくなってしまいます。なにしろ雀の涙ですから。
 でもそれでは、消防団員は必要経費しか受け取れていないのと同義ではありませんか。
 頑張ってくれた団員たちを労い、新たに入ってくる団員を歓迎する。その費用はどこから捻出すれば……。
 これ以上は言わなくても理解できますよね。

 「それでも公金である以上、遊興費に充てるのは問題だ! もっと厳格に管理するべきだ!」
 と堅苦しい理想を主張するヒトもいるでしょう。
 ならばこう返します。

 そもそもの制度がおかしい、と。

 団員を労うのに充分な、負担に相応しい金額を最初から支払っていれば良いのです。活動報酬を増額すれば良いだけです。
 そのうえで助成金を打ち切るのなら、誰も文句は言わないでしょう。

 現行制度のもとで厳格な資金運用を強要するのは、地域防災の重要な柱のひとつである消防団員を無用に苦しめるだけの愚策でしかありません。

 「震災直後に宴会を開くのは不謹慎」ですか?
 一応相手をしておきましょう。というか、繰り返しになるのですが――
 消防団員は公務によって死ぬかもしれないんですよ?
 東北の犠牲者を他人事だと思っているから宴会を開けるのではありません。「明日は我が身」だとわかっているから、生きているうちに少しでも楽しく過ごすのです。
 愛知県は、東海地震が起これば甚大な被害が出ると予想されています。当事者意識など、無いはずがないではありませんか。
 「津波注意報発令中」?
 記事中に「災害対策本部解散後」って明記されているじゃないですか。
 あれですか、あなたは仕事上がりの飲み会や晩酌も一切禁じられるのが正義だとお考えですか。でしたらもう話が通じませんので、どこかわたしの目の届かないところへ行ってください。


・消防団員の冷遇は、地域の防災能力を著しく損壊させる。

 キツくて危険で責任ばかり大きくて、割に合わない仕事。
 実質ボランティア。

 こんな消防団活動を、好き好んでやりたがる人間なんてそうそういません。
 ならば何故参加するのかと問えば、こう返ってくるでしょう。
「この地域に住んでいるからだ」と。
 義務感・正義感・善意・しがらみ・諦め。そういった想いによって
「嫌なことも多いけど、まあ仕方ない。やってやるか」
 そうやって参加し、なんとか楽しみを見つけていくのが消防団活動です。

 しかしですね……義務感で自分たちを律するのにも……冷遇にも……限度ってものがあるのですよ。

 サービス残業への批判、最近特に盛んですよね。
 どうです? 消防団活動。サービス残業と似ているとは思いませんか?
 時給換算してみて、どう感じられますか?
 やりたくないって、思いませんでした?
 その時間で最低賃金のバイトやった方がマシだって思いませんでした?

 そんな実情と世相の変化が合わさり、消防団員の数は年々減少と高齢化の一途をたどっております。
 今後も地域防災能力を、消防団を維持したいのならば、待遇の改善が必要になってくるでしょう。東日本大震災によって、防災能力の向上は日本中で急務となっているはずです。その一環としても、対応が必要でしょう。
 しかし驚くべきことに、愚かにも、西尾市は23日、消防団交付金の廃止を決定しました
 最早、西尾市消防団の崩壊は免れえないのでは、というのが自分の予想です。彼らが今後すべての活動をボイコットし、あるいは一斉退団して自ら消防団を事実上の廃止に追い込んだとしても、それを責める気はありません。

 さらに警戒すべきは、この愚挙が中日新聞によって連日報道されていることです。それもあのような低劣な記事で。
 もし今後、この件が各地に飛び火し、消防団の待遇悪化が相次いだとしたら……。
 多くの消防団が存続不可能となり、地域防災能力が著しく低下する恐れがあります。


 それを防ぐために、今回この記事を書かせていただきました。
 皆さん、もっと消防団の実態を知ってください。
 ネットで調べるだけでも具体的な数字が、一次資料が大量にみつかります。
 身近に消防団員がいる方は、直接実情を教えてもらってください。
 マスコミの垂れ流す偏った情報に騙されないでください。
 そして、皆さんの地域の消防団員を、どうか支えてあげてください。


 最後に、言わせていただきます。
 地域防災能力を削がんとする西尾市議会、及びそれを後押しした中日新聞。

 両者を「公共の敵」として、

 
声を大にして非難いたします!!

 絶対に許せません!

 
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
posted by nekome at 23:26| Comment(11) | TrackBack(0) | 日記
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