2010年11月23日

同じ世界を見つめて『フダンシズム−腐男子主義−』7巻

 終わるの? 本当にこの1冊で綺麗に終われるの?と不安だったものですから、裏表紙に「中学生編ここに完結!」の文字を見て心の底から安心しましたよ!
 あえて連載追ってなかったんで、高校生編のことは知らなかったんですよね(twitterでちらっと目にした気はする)。
 これで晴れやかな気分で読むことができます。

 もりしげ『フダンシズム−腐男子主義−』7巻(ヤングガンガンコミックス)
 
 意外にも初めてだという、小西さんの宮野家訪問。数の姉である環依とは同人活動で繋がりがあるのでごく自然な訪問ではあるのですが、その輪に入るためには、数はアマネにならなければいけません。
 女装を済ませ、怪しまれないよう一旦外に出ようとする数――アマネですが、自室を出たところでばったり母親に遭遇してしまいます。
 アマネはその瞬間こそなんとかやり過ごして外に出ましたが、息子の不在を知り、アマネの正体に勘付いてしまった母親は数の部屋を捜索。アマネの服を見つけてしまい――

 試しに自分で着てみます(爆)

 何やってるんですか奥さん!
 まだまだ現役でいけますね奥さん!
 
 ――って、そうじゃなくて。
 ちょっと悪ふざけもありましたが、母君は先ほど会った「少女」が息子であると確信していました。これまでで最も深刻な周囲バレの危機となってしまいます。
 環依を問い詰める母。しかし環依はアマネが築いてきたものを守るために、一歩も譲りません。
 娘の必死さと、友達の輪の中で笑顔を浮かべる息子を見た母は――
 
 姉といい母といい、数、良い家族に恵まれましたね。


 中三の一学期最後の日には、上京してきた方向音痴娘、十河まさきが数とばったり再会。
 数の女装を知っていて、押しも強いまさきは一気に距離を詰めてきます。
 ていうか目の前で女装させるって、押しが強いとかいうレベルじゃないぞ。
 そんな身勝手さに振り回せれてるせいか、まさきと話してる時のアマネって普段より感情露わにしてて可愛いんですよねえ。

 しっかし、冬コマでは迷惑極まりない「お客様」として登場したこの娘が、まさかの恋愛参戦宣言とは……。
 高校生編の存在を知らなければ「こんなタイミングで!?」と驚くところですね。


 ism.54「集え! みんなの夏コマで!!」とism55.「叶え! みんなの“のぞみ”」は中学生編最後のヤマ場。
 夏コマ当日、家の用事やらトラブルやらで出発の遅れていた数=アマネ、小西さん、東峰さん、六徳さんらが閉会の迫る会場へと向かう。
 徐々に合流を果たしていく中、彼らの脳裏に浮かび、語られていくのが『おまかせ☆てんてる』第一期の最終回。
 これが本当に泣ける内容で! 絶妙な挿入で!
 課題を抱えたまま、それでもお互い良い方向へ向かいたい数=アマネと小西さんとの関係。
 「おま☆てん」をきっかけに結び付いた仲間たち。
 「おま☆てん」最終回のメッセージ。
 それらが見事に融合していて、胸がいっぱいになりました。
 ああ、自分本当にこの作品好きだったんだなあ。

 
 卒業式の後に掲載されていたのは、春休み特別編。
 エスカレーター式のため、また同じ学校で過ごすことになるみんなの、高校生活を意識しつつも平穏な日々が描かれます。
 アマネと小西さんも二人で、これまでとこれからに思いを馳せています。

 この二人の関係で不安だったのが、偽りを抱えた関係だということ。
 「数くんと小西さん」の関係も、「アマネとのぞみん」の関係も、両方とも良好に推移しているのですが、「アマネとのぞみん」の関係は数の嘘の上に成り立っている。
 楽しい時間を守るための嘘が、致命的な亀裂を生むかもしれないという不安。

 しかし、この時匂わされた事実は――――っっ?

 そ、そう来た、かっ。あの場面で……なるほど……。

 高校生編『フダンシフル』、たいへん楽しみになってまいりましたっ!! って、もう連載始まってるから読めるんですよねっ。
 

〜過去記事リンク〜

 『フダンシズム−腐男子主義−』2巻
 『フダンシズム−腐男子主義−』3巻
 まつもとぶちょうのなかでなにかがふっきれた!『フダンシズム−腐男子主義−』4巻
 二重生活の真骨頂! 充実の文化祭『フダンシズム−腐男子主義−』5巻
 腐女子として振舞うのは「好きだから」『フダンシズム−腐男子主義−』6巻

posted by nekome at 22:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 女装関連

2010年11月22日

身近な少女の肉体で甦るということ『少年式少女』2巻

 近隣の中規模書店には売ってなくて入手に手間かかりました。同じように苦戦する方もいると思いますが、諦めず取り寄せてもらうなりネット通販使うなりして買っておくべきものです。今回で完結巻。

 和田依子『少年式少女』2巻(アフタヌーンKC)

「彼女の中で目覚めた“おれ”の魂。
 シキの肉体に宿ったタケルの魂。「シキを絶対に助ける」と誓うタケルだが、その魂は徐々に崩壊していく。
 14歳、少年の無垢な魂が格闘する!!」


 帯に書かれている↑の文章は的確で、非常に重く、シリアスな物語です。
 1巻だけを読んだ人は、「少年の魂が少女の身体に入ったことによるドキドキとか、色っぽい場面がほとんどなくて、あんまり美味しくない」と思ったかもしれません。
 けどね、TS的な美味しさっていうのは、そういうライトなお約束ばかりじゃないんですよ。本領発揮は2巻収録分からです……!

 第9話のタイトルはそのものズバリ、「産むからだ」。
 第8話のヒキですぐぴんと来た人もいると思いますが、その通り、生理の話です。
 いずれ赤ちゃんを産む準備である生理、それを初めて経験し、痛む腹を抱えて横たわりながら、改めて「自分が女であること」を考えるようになるのです。
 単なるTSモノのイベントとしてではなく、ここまで突っ込んだ形で生理を使う作品はそう無いのではないでしょうか。

 第10話「つきあうってことは」では、唯一事情を知っている担任男性教師(前セン)の家を訪れた際、彼女のものとおぼしき服とコンドームを発見。先生はここで女の人とセックスをしてるんだな、と考えたタケルは奇妙な感覚に襲われます。
 腰のあたりから感じる熱、上気する頬。
 性的なことを「女の身で」初めて考えたことによって。
 今の自分が男を受け入れる体であるという自覚のうえでセックスを意識したことによって。
 タケルは自分でもよくわからないままにオンナの表情を見せてしまうのです。

 ここがもう……ゾクッとするほど色っぽい!!

 並大抵の作品ではこの顔は描かれない。女の肉体に宿った少年の魂というものを、その意識の変化を真摯に想像しなければ、この表情は描けない。

 「女である自分」を意識するようになったタケルですが、その自覚はまだまだ足りず、無邪気な行動が周囲との軋轢を大きくしてしまいます。
 男友達の感覚で特定の男子と仲良くしていたため、つき合い始めたと勘違いされてしまうのです。
 厄介なのは、「シキがタケルのことを好き」ということを、当のタケル以外多くの人間が知っていた、それどころか完全につき合っていると思われていたこと。
 つまり周囲からは「シキ(本当はタケルだけど)は前の彼氏が死んで間もないのに、もう次の彼氏を捕まえた」ように見えてしまうのです。
 この噂が一気に広まった時の、女子たちの言葉が怖い。

「すごいよね あの女」

 ……最近は「女子に嫌われるTSキャラ」というのも増えてきた気がしますが、事情を知られていないとはいえ、ここまで言われたキャラは他にいないでしょう。
 「あの女」呼ばわりですよ。
 この作品に登場する女子たちの言動やコミュニティのあり方は実に生々しく、無垢な少年であるタケルがまともに会話できた女子はほんの数人だけ。
 女性作家だからこそ描ける内容かもしれませんね。

 
 
 シキの中にいるタケルには、前セン以外誰も気づかない。
 誰もがタケルを死んだものとして扱う。
 前センですら、シキの中にタケルを見出したわけではなく、特殊な事情があって「見えて」いたに過ぎない。
 シキらしく生きようとしてみても、周囲との人間関係もろくに構築できない。

 自分を犠牲にしてでもシキを復活させようとしていたタケルですが、「自分が死んだ世界」で孤独に苛まれながら生きていくのは想像以上に辛く、徐々に精神をすり減らしてゆきます。
 さらに、ある疑念に囚われて追い詰められたタケルは、自分の中に潜むエゴにも気付かされ――

 物語は終局へ。
 語るのはここまでにしておきましょう。
 
 不可逆な憑依モノでは、死を扱うのは不可避。
 けれども、主人公が周囲の人間にとって死者であり認識不能だということを、他人として生きていかなければならないということを、ここまで徹底して真剣に描き切った作品というのは稀有であり貴重。
 女として生きることになった少年というものも、生々しく、真摯に描かれている。
 TSを扱った創作物の幅広さを知るためにも、是非読んでおいてほしい物語です。

 〜過去記事リンク〜

 3年間、大事な少女の体で生きろ「少年式少女」第1話
 向き合うのは、誰の不在か『少年式少女』第4話
 キャッチフレーズに恵まれた『少年式少女』1巻発売!

2010年11月20日

確かな進歩の憑依AV『ボディジャック パート3』

  待望の憑依モノAV第3弾! 『ボディジャック パート3』がやってまいりました。
 まだまだツッコミどころはあるんですが、頑張りの伝わってくる内容でしたね。


 今回の主人公は無職引きこもりの30代男。ダメダメな自分の人生に嫌気がさした彼は、通販で買った謎の錠剤を飲んで幽体離脱します。
 最初に憑依する相手は義理の妹(パッケージには「義理の姉」と書かれちゃってますが……)。
 今まではすぐ近くにいる人間に憑依してたんですが、今回は幽体になったあと、自分の部屋から義妹の部屋まで移動して憑依してますね。
 細かいところですが、「折角誰にも見咎められず自由に移動できるんだし、少しは幽体のままで移動して標的探そうぜ!」と思っていたので、今回のこれはちょっと嬉しかったです。

 でも幽体で移動していたのはここぐらいで、あとは今までどおりにキスで乗り移るだけなんですよね。
 何故だ……。絡んでる相手にしか憑依しちゃいけないなんてこだわりは持ってないんだぞユーザーは。
 あと、憑依の瞬間の演出がやっぱり間抜けなのも残念。

 とはいえ、不満なのはそれらの「前作から変わらなかった点」や細かな粗ぐらいであり、他の部分では各所で工夫が見られました。
 わりと細かいところまで書いちゃいますんで、ネタバレ避けたい方はご注意を。


続きを読む
posted by nekome at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想・AV・TS

2010年11月10日

凶悪犯の霊に憑依されるいずな!『霊媒師いずな』第48話

 なかなか落ち着くことができず、もう何度も読み返している自分がいます(^^)
 いずなが、いずながついにやってくれました。
 
 『スーパージャンプ』No.23に掲載された『霊媒師いずな』第48話のタイトルは「殺人鬼いずな(前編)」。
 狂気の連続殺人犯が死亡してしまい、捜査への協力を求められたいずなは、彼の霊を呼び出すことで取り調べを成功させる。しかし、帰宅したいずなのもとへ殺人鬼の霊が現れ、消耗し切っていた彼女にとり憑いてしまう。
 完全に乗っ取られたいずなは、欲望のまま、身近な女性たちを刃にかけようと……。

 何これわたしの好みドンピシャじゃないですか! いずなには期待してたけど、まさかここまで理想的なものを見られるとは……。

 前にも言いましたけど、わたしは悪堕ち属性が強いんで、「憑依されてエロいことをする」よりも「憑依されて悪行に走る」方が興奮するんですよ!
 美少女が男の悪霊に憑依されて殺人鬼と化すなんて、最高に美味しいシチュエーションですね!
 可愛い顔に凶悪な笑みを浮かべているいずながたまりません。

 あ、エロい絵面のシーンもあるので、そっちにしか興奮できない方もご安心を。

 ふう、なかなか興奮が醒めません。
 いずなは思い入れ強いですからね……。
 『地獄先生ぬ〜べ〜』で登場間もない頃、降霊を試みてエロい女性の霊に憑依された時から、もう何度妄想のネタにしたことか。なにしろイタコ娘として登場したんです。憑依展開を求めるのは当然というもの。
 けど男性に憑依されたのは、悪霊を撃退するために、幽体離脱したぬ〜べ〜に体を貸した時ぐらいですかね?
 『霊媒師いずな』になってからは青年誌ということで「男に憑依されてエロい展開を!」という期待も一層高まったのですが、惜しいところを掠め続けるばかりで、もうストライクな展開はないんだろうなあと思っていたんですが……。
 この「殺人鬼いずな(前編)」は言うことなしです!
 単行本買い続けてたかいもあったというもの。報われたあ。
 まあ、普通にエロい展開が良かった、という人の方が多いかもしれませんが、わたしはもう満足してしまいました(^^;
 
 満足したと言いながら、後編でもうひとヤマあると嬉しいなとは思っちゃいますがね!

2010年11月06日

いよいよ物語は核心へ!『クロノ×セクス×コンプレックスB』

 TSを含めてもTSを抜きにしても本っっ気で面白いから、まだ1冊も読んでない人は今からでも追っかけた方が良いですよ。

 壁井ユカコ『クロノセクス×コンプレックスB』(電撃文庫)

 2巻では元男子ならではの気安さで、女嫌いの男子生徒バーニーに急接近してしまった三村。そーなのよ女の嫌な部分を持たないTSっ娘は、男のハートを掴みやすいんですよね。当人が女子コミュニティにげんなりしていれば尚のこと、男子との距離は縮まりやすいというもの。
 そんなわけで壁井ユカコさんわかってるぅ!と快哉叫ばずにはいられなかったわけですが、3巻でもやってくれました!
 カラー口絵にも描かれてるんで、これはもう言っちゃっても良いでしょう。

 ミムラin三村×三村inミムラなシーン来たーーーーっ!!
 三村朔太郎になったミムラ・S・オールドマンは元女子にもかかわらず、三村朔太郎だったころの三村朔太郎よりも男前で、ミムラ・S・オールドマンとなった三村朔太郎を余裕の表情で押し倒しちゃうのです。
「この際だから、お互いに“初めて”を“自分自身”と経験してみるのも面白くない?」
 なんて言っちゃって!
 一方の三村inミムラは精神面でも圧倒されるわ女の子の華奢な身体では抵抗できないわで涙目で慌てふためくのですよ。
 なんて美味しそもとい可愛い。
 このシーン(&イラスト)だけでご飯3杯いけるというものですね!
 何度ツボを突いてくれるんだ壁井ユカコさん!
 入れ替わりなのに入れ替わり相手が登場しない、と嘆いていた方にも喜ばしい展開ですね。

 ……とまあ、TS嗜好を刺激するシーンでつい盛り上がってしまうのですが、2巻を読んだ方にはご存知の通り、三村には残酷な事実が告げられます。
 失意のままクロックバードで無為に時を過ごす三村。
 そんな彼のために時間魔法を使ったオリンピアが、再び事件を起こして……。
 
 オリンピアの動機は良いとして、この大騒動は必要なのか?と最初は思ってしまったのですが、この事件が一気に三村をすべての真相へと近づけることになるんですよね。切迫した状況で辿り着いた、身体の中が冷え切るような答え。読んでいて、彼の必死さに共感してしまう展開、上手いです。
 1巻から匂わされていた物語の核心は、当初の不安を更に上回る重苦しさを持って立ちはだかります。
 普通に考えて、三村の進む先には大惨劇しか見えない。
 三村の目にも、惨劇しか映っていない。

 だから、1巻を読んだ時から物語がどう着地するのか怖くて仕方なかったのですが……。
 
 ――ここに来て盛り上げてくれました!
 面白い。凄く面白い。この要素は考えていなかった。
 ここから先は完全に未知の世界。けれど旬のラノベの中で屈指の面白さであることは確信できる。何を見せてくれるのかどう魅せてくれるのか、実に楽しみです。
posted by nekome at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想・小説・TS
banner4.jpg