2009年07月13日

『チェンジH pink』は「TSアンソロジー」に非ず

 『チェンジH pink』は「TSアンソロジー」に非ず。
 繰り返します。
 『チェンジH pink』は「TSアンソロジー」に非ず。
 「それほどTSには詳しくないけれども、噂になっていたので買ってしまった」という方は特に、出版社サイドの誤った宣伝文句を信じてしまわないよう、ご注意ください。


 このように特定の出版物を否定する記事を書くのは、本来、わたしの望むところではありません。
 この記事を書かねばならない事態が発生したことを、非常に残念に思います。

 心配していたとおりに、悲惨な構成となりました。
 中立的な視点で判定しても、ターゲットの定まらない中途半端な出版物です。
 収録作品は12本。
 うち、TSは変化過程含めても2本のみ。
 あと、ふたなり1本。残り9本はすべて女装・男装

 これのどこが「TSアンソロジー」であるというのか。
 女装も男装もふたなりも、TSとはまったく違うものであり、ひとくくりに「TS」と呼んで売って良いものではありません。

 解釈論争への結論を先に言ってしまいますと
「“sex”=“肉体的性別”が変化していない異性装が“trans sexual”であるわけがない。以上」
 となります。
 男の肉体のままで、服装だけ女ものに変える女装の、どこをどう解釈すれば“sex”が“trans”していることになるのですか。
 「異性装もTSに含めて良い」と考えている人もいるにはいますが、そういう人は“gender”という語を用いるべき場面で“sex”という語を用いているから混乱しているだけです。

 いや、少年画報社の場合、混乱しているどころではありませんね。
 表紙にはデカデカと「女装」「男装」の文字。
 そして帯には「♂♀!?…第3のエロコメでる!前代未聞のTSコミックス新発信!!」と書かれています。
 「少年画報社にとっては、女装と男装こそTSである」と確信的に宣言しているようなものです。
 (帯によって「性転換」の文字が偶然隠れたなど、言い訳にもならない)

 また、編集後記には
※「チェンジH」においては「TSコミックス」を「異性へ変身する物語を集めたコミックジャンル」として用います。ここでいう「変身」は異性装も含みます。」
 という断り書きが入っています。
 『ヤングキング』誌上の広告においても、「女装・男装・性転換…それが――TSコミック」などと、デカデカと出鱈目を書いてくれましたね。

 そもそも、そういった宣伝文句がなくとも、「TSコミックス」と銘打って発行した本の掲載作品の大半が異性装作品である時点で、読者には「異性装のことをTSと呼ぶのだ」という誤ったメッセージが届いてしまうことになる。そんなことは明々白々です。
 しかも商業媒体でやられてしまったのですから、ジャンル「TS」の受けたダメージは甚大と言えます。
 
 少年画報社は、どれだけTSの定義を歪めれば気が済むのか。
 貴方方は、自分たちが興味もなければ理解する気もまったくないジャンルを食い荒らすことが、そんなに楽しいか。
 
 「ちょっと流行っているらしいから、TSと銘打っておけば売れる」とでも思いましたか。

 ……真実は知る由もありませんが、企画立案当初はTSを主体とするものだったのが、実際にゴーサインが出るまでに変質させられたという可能性もあるかもしれませんね。会社組織ですから。
 しかし、たとえそんな事情があったとしても、そんなことを斟酌する義務は読者にはありません。
 結果としてこういう形で本が出た以上、TSというジャンルで活動している人間としては、激しく反発せざるをえない。

 ……断っておきますが、わたしは女装モノを嫌いなわけでもなければ、この界隈から排除したいわけでもありません。
 批判対象は企画・販促方法であり、個々の掲載作品ではありません。

 区分可能な物は区分したうえで楽しめば良いのです。
 普段からこのブログを読んでいる方には説明するまでもないことだと思いますが、ここは念のため強調させていただきます。

 これはあくまで分類、ジャンル区分の話です。
 個人的嗜好・好悪の感情・読者の度量などといった矮小な問題ではありません。

 異性装を主体にしたいのなら、「異性装アンソロジー」と名付けて売れば良い。
 異性装とTSの両方を扱いたいのなら、「異性装+TS」と書けば良い。
 何故その程度のことができなかったのか。
 何故、TSというジャンルに迷惑をかける形で出版したのか。
 ……ツンデレブームに乗じた擬似ツンデレの氾濫などとは比較にもならない、「悪しき商業主義」の結果としか見なせません。



 ただでさえマイナージャンルであるTSは、この本の出版によってさらなる危機的な状況に追い込まれました。
 正確には、黙っている限り危機的な状況です。
 何もしなければ、圧倒的多数である女装というジャンルの前に、TSというジャンルは飲み込まれていくだけです。
 TSというジャンルの存続を願う人間は、「これぞTSである」というものを、行動によって示す必要に迫られています。


〜関連リンク〜
チェンジHに物申す!」(R and TS)
「時事っぽい話」(喫茶ま・ろんど)
posted by nekome at 15:44| Comment(12) | TrackBack(0) | TS雑談
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